頂*捧*企

□「君の知らない物語」の鉢屋視点や告白時の話
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2万打リクエスト企画
【「君の知らない物語」の鉢屋視点や告白時の話】
※卒業の話も出てきます



溜め息が増え、考え事をすることが増えたハチに気付き、何かあったのかと尋ねても曖昧な笑顔しか返って来ない。
そんなことねぇよ三郎の見間違えじゃねぇとハチは言うが、本人が知らないだけで私はハチをよく盗み見ていたから見間違えの訳がないのだ。
本人には言えないけれど。


だから、お前を笑顔にしたかったんだ。




「今夜星を見に行こう」

私の言葉に、当然のように全員が驚きの顔を見せる。
ハチに視線をやればこちらも小さく口を開けて私の方を見ていて、先程まで集中して読んでいた本から私に向けられた瞳が嬉しいがその素振りを見せないように言葉を続ける。
言い繕った言葉に、勘右衛門を筆頭に私のくせにとか私なのにとかは言って来たのは聞き捨てならないが、今回はハチを喜ばせる為なので私も深くは追求しないことにし、顔の変装を木下先生にするだけに留めるとい組の二人は一瞬びくりと肩を揺らしていた。
どこか理由のわかっている気な雷蔵の笑みに私も同じ顔へと戻って笑みを返す。

時期的なのもあって、誰からも断りの言葉は出なかった。
文句を言う勘右衛門を連れて部屋を出れば、直ぐに勘右衛門に問われる。

「三郎、何か企んでいるだろ」

「心外だな。何も企んでなどないよ私」

私の言葉に疑わしげな目を向けてくるが、ここで私の気持ちがい組にばれてしまえばハチ馬鹿な二人に邪魔されることは必至だろう。
それなので私は笑みを作り勘右衛門の方へと向いた。

「雷蔵と一緒に星空を見上げる、最高じゃないか!!これを機に雷蔵が私を何てことになったら…どうする私!!!しかも夜だからこっそり手を繋いで、暗闇だからこそ近くでないと見えない雷蔵のはにかんだ笑顔とか――」

「あ〜…もういいわ。そう、まぁあれだ、頑張れ〜」

最後の言葉を投げやりに言って勘右衛門は私を置いて歩き出した。
その間も私の口がら雷蔵がとか雷蔵ととかの言葉を発するがもう勘右衛門には聞こえていないようだ。
どうして雷蔵の事みたいに素直にハチに接することができないのかと、少しだけ嘆いて肩を落とし勘右衛門の後を追う。




夜に集合してみればハチと私以外が風呂敷包みを持っていて、ハチも呆れた顔をしているが口には出さないのはあいつなりの優しさだろう。
勘右衛門に至っては一番大きな風呂敷を抱えているがそんな荷物用意できる時間なんてあったか?
良い感じの理由を言って先生に許しを貰って、中々見つからない小松田さんに外出届を出せばもう夕飯の時間で、その後に目を慣らすのも兼ねて夜練をして今の筈なんだが。
勘右衛門の不思議には触れることはせず私達は出発する。

前に課題の帰りに見つけた穴場が裏山の奥にある。
そこを目指して、雷蔵の荷物を持ってあげて歩きながら私は少し後ろにいるハチを見た。
暗い世界で何とか存在を捉えれば、い組と何やら楽しそうに話している。
手には兵助に渡されたのだろう高野豆腐を持っていた。


『三郎、いいの?』

『…何が?雷蔵』

横から聞こえた矢羽根に聞き返す。
私自身、白々しいとは思うのだが、どうしてもハチの事には素直になれない。
雷蔵は少し怒ったように私を見ていてそしてハチを見遣る。

『そんなことしてるからハチに誤解されるんだよ。…ああほら、ハチがい組に挟まれた』

その言葉に私もハチの方を見れば、兵助の隣にいた勘右衛門がいつの間にかハチの隣へと移っていて見事に私の入る余地などない。
ハチも何やら面白そうにはしゃいでいるし。
あいつは前に私達がいることすら忘れているのではないのか、と問いたくなるくらい此方に対して会話が向けられることはない。
ふぅと吐いた息は雷蔵には聞こえたらしく心配そうな顔を向けられたので、私はこの先道が険しくなるからと雷蔵に手を差し出す。

「僕を代わりにしないでよね」

「そんなはことしない。雷蔵は私の大好きな雷蔵だし、ハチはハチだ」

肉声での雷蔵の言葉に笑顔でそう言えば、全くもう!と憤慨された。
何でそれが分かってて行動できないんだと思われているのだろう、繋がれた雷蔵の手は私を励ますように強く握ってきた。






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