頂*捧*企

□命短し、恋せよ乙女。
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鉢竹月企画('13)
鉢にょ竹 現パロ転生



 序 


ぱたりと耳の傍で聞こえた音に目が覚める。
がんがんと痛む頭を押さえつけてベッドから起き上がればまたぱたりと音がして、その方向へと目を向ければ上に掛けていたタオルケットに円状の染みが付いていた。
ぼんやりとその一点を眺めていると更に円状の染みは増える。
それが何かを確かめる為に想い瞼を擦れば、生温かい水滴が指に付いてきて、泣いているのかとどこか他人事に竹谷は思った。

「またかよ…」

大きく息を吸い込んで吐き出せば頭痛のしていた頭は酸素を喜ぶように静まっていく。
開け放した窓を見れば外には太陽が出ていて、早朝の為まだ煩わしくは感じないがこれから暑く焦らしていくのだろう事は大いに予想がついた。

朝の空気を吸い込んで、泣いていた頬を拭って何時もより早い朝の支度を始める。
竹谷はもう泣いていたのを忘れたように汗を掻いたTシャツを脱ぎ始めた。
何せ、夢の内容が思い出せないのは何時もの事だったから諦めていた。




半袖の白いセーラー服に身を包んで家を飛び出せば普段と変わらない時間だった。
のんびりと朝食をとり過ぎたかと早足に学校へと向かう。

今日で竹谷の高校は夏休みに入る。
一学期の最終日に遅刻となっては、悪戯好きの友人が夏休みは明日からだぞ、夏休み前から夏休みボケか、と言ってくる姿が容易に想像できて腹立たしい。

「くそっ、近道するか!」

向かっていた方向を変えて細い路地裏へと進む。
影になっているのにじめじめとした場所を早く通り過ぎようと目の前のゴミ箱を飛び越えたところで人にぶつかりそうになった。

「わ!すみませ、って三郎!!雷蔵っ!!」

「はちかよ!雷蔵に当たったらどうする!」

「おはよー、はちー!」

竹谷とぶつかりそうになったのはつい先ほど思い出していた三郎で、その後ろに手を顔の横に上げて呑気に朝の挨拶をする雷蔵がいる。
竹谷が急ぎ足なのに対してのんびりと歩く二人を焦れたように手を掴むと引き摺るように歩き出した。

「そんなに急ぐことないってはち」

「そうだぞ、はち。さっきみたいに急ぐとパンツ見えるぞ」

「お前が遅刻遅刻って馬鹿にするから……って!!私はスカートの下に短パン穿いてるから見えねーよっ!!」

振り返って語調を強くして怒る竹谷に三郎の笑みが返る。
周りの友人たちが呆れているのは分かっているが、どうも竹谷はこの、ニヤニヤと意地悪く笑う笑みに刺激されてならない。
むっとさせて黙り込んだ竹谷に歩調を合わせだした三郎が並ぶと今度は竹谷が引っ張られた。

「ほら、急ぐんだろ」

「ああ。…うん」

頷いて引かれた手を見る。
竹谷より一回りも大きな手は高校生とはいえ男性のもので、それに比べて竹谷の小さく細い手や腕は女性のもので頼りない。
それが、堪らなく悔しい気持ちにさせるのだ。
男と女、体格の差も力の差も出るのは当然であるのに、比べることのできない自分が何故だかとても嫌で、情けなくて、そんなもやもやとした気持ちから遠ざけるように現実でどうにもならない自分の手から目を逸らした。

今の高校に入るまでそんな事は考えもしなかったのに、高校に入って出来た友人四人と一緒にいると一人だけ女の自分が取り残されているようで悲しくなるのだ。
まるであの夢の後のように、泣きたくなるのだ。




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