綾タカ

□穴を掘る理由
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穴を掘る理由
綾→タカ
※病んでるかも?





ざく、ざくっと音を立てて穴を掘り進めて行く私に思う事は何もない。
それでもあえて言うならば、無心だ。


本来なら、穴を掘る時は誰が掛かるか、どんな罠を底に仕掛けるか考えるのが楽しく、いつの間にかタコ壺も落とし穴も出来ていた。

ただ穴を掘る目的が違うだけで、こうも気持ちが違うのか。
無心。
心を無にする事はこの四年間で幾度も学んできたし、やってきた事。
無心でなければならないのに、じわじわと心の底から滲み出て来る虚無感。

虚しい、馬鹿らしい、意味がない。
心が叫ぶ言葉を無視して、私の体は穴を掘る事を続ける。

何時もより更に深く掘って、何の準備のしていない人間が一人では上がれないぐらいになって鍬を動かす手を止めた。
ここまで掘るのは恐らく私くらいだろう。

狭い穴底に膝を付けて屈み込む。
土に手を付いて、嗚咽を噛み殺して泣いた。
涙は頬や鼻筋を伝って地面へ落ちると土を湿らせる。


泣く事など久しぶりで、泣けるかどうかすら不安だったがそんなものは杞憂だった。
思うだけで泣けるなんて忍者としては失格だが、今だけは一人の人として涙を流す。

タカ丸さん


タカ丸さん



タカ丸さん


名前を繰り返し嗚咽と共に吐き出す。
感情が動かされるのは初めてだった。
誰かに執着するのも初めてだった。
私一人に笑顔を向けて欲しいと思う事も初めてだった。

何もかも初めての感情を、私は自分で処理する事は出来なくて、情のままにあの人を求めてしまいそうになる。
だから私は穴を掘る事にした。



穴を掘って、この想いを埋める事にした。



深く深く掘って、全てをこの場所に埋めてしまえばまた元に戻れる。
解放される。

だいすきなんです、あなたが。
いとおしいんです、あなたが。
こわしたいんです、あなたを。
まもりたいんです、あなたを。

矛盾する想いとあの人に関する恋情を、涙に乗せて流して落して蓋をする。





全てを終わらせて空を見上げて、それを後悔する。
月は優しく、私にしてみれば残酷に優しい光を放つ。

まるであのひとのように。





end

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