綾タカ

□夜の隠れんぼ
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夜の隠れんぼ
綾タカ







まだ帰って来ていない。
滝夜叉丸からそう聞いたタカ丸は、綾部を探すために学園内を走る。
もう夕食の時間も大分過ぎたが帰って来ないらしい。
一晩中、穴を掘って帰って来ない事はよくある事なのでそういう心配はしていないが、明日はい組で実習があるらしいのでちゃんと睡眠を取らせたいとの事だった。
名前を呼びながら綾部を探していると、同じく駆り出されたのであろう、三木ヱ門と遭遇した。

「どう?綾部君いたぁ?」

タカ丸がそう尋ねると、三木ヱ門はこちらに走り寄りながらいいえと首を振った。

「ったく、喜八郎の奴は何を考えているんだか!」

明日の実習はそこそこ厳しいらしく、しかも成績に関わるものらしい。
だからい組の生徒は体力を養うために早々と寝てしまっている。
今起きている四年生のい組は恐らく滝夜叉丸と綾部だけだろう。

「綾部君らしいけどね〜」

困った顔で笑うタカ丸に、三木ヱ門は笑い事じゃありません!と詰め寄る。

「しょっちゅうこうなんですよ!!結局、私まで手伝わされるんです!」

憤慨しながら、今度何かおいしい物を二人に奢らせましょう!と三木ヱ門は言うので、タカ丸はそれに笑顔で頷いた。
何だかんだと言いながらも捜索を手伝っている三木ヱ門が、本当は二人の事を心配しているのはタカ丸にも分かっていた。

「三木ヱ門君は優しいね」

タカ丸のその言葉に、三木ヱ門は一瞬目を見開いてからぷいと顔を横に逸らせた。

「別に…私は全力でない滝夜叉丸に勝っても嬉しくないだけです」

多分、後日に同じ内容の実習をろ組とは組も行うのだろう。
成績でよく張り合ってる三木ヱ門と滝夜叉丸は、互いに全力を出して戦うからこその好敵手なのだ。

「そうだね…。よし!!それじゃあ滝夜叉丸君の為にも、早く綾部君を見つけちゃおっか!」

それが滝夜叉丸の為であり三木ヱ門の為でもあり、勿論綾部の為にもなる。

「仕方ないですからね。それじゃあ、私はあちらを探します」

誰かの、しかも滝夜叉丸の為に綾部を探すと言う事に照れつつ、三木ヱ門は指を示した方向に走り出した。
それを見送ったタカ丸も、両拳を握り締めるとよしっ!と己に気合を入れて、綾部の捜索を再開させるのだった。








暫く走り回り、学園の外れの方まで捜索をしていたタカ丸はふと足を止めた。
視線の先に、地面にぽっかりと空いた穴を見付けたのだ。
タカ丸はそれを見て、此処に綾部が居るなと確信し、穴に向かってゆっくりと歩みを進めた。

穴の淵まで来ると、ひょこっと穴を覗き込む。
すると穴の中には、月に照らされた藤色が待ち構えたように此方を見上げていた。
その藤色と目が合うと、タカ丸はにっこりと微笑むと嬉しそうに宣言した。


「綾部君み〜つけたっ!」






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