綾タカ

□あたりまえの
1ページ/2ページ

あたりまえの
綾タカ








「…ふあ〜」

思わず出てしまった欠伸に、タカ丸は口元を押えた。
押えたところで欠伸をしたのを隠せはしないのだが。
口を手で押えたまま、ちらりと視線を動かすと口元に微かに笑みを浮かべた綾部と目があった。

「少し休憩しましょうか」

綾部の後ろから、やはり口元に笑みを浮かべて滝夜叉丸が言ってくる。
夜中まで明日提出の課題を手伝ってもらっている手前、流石にそれは悪いなと思ってタカ丸が断ろうとしたら、その前に三木ヱ門がひとつ頷き開いている資料から顔を上げた。

「そうしましょう、タカ丸さん。後は今まで集めた資料の文章をまとめて書きだすだけですから」

そう言うと三木ヱ門は、お茶を持ってきますねと言い置いて滝夜叉丸を引っ張って行ってしまった。
それをやや呆然と見送った後、タカ丸は机に突っ伏して溜め息をついた。
覗き込んできた綾部と目を合わせると、タカ丸は申し訳ない気持ちになる。

「ごめんねぇ、迷惑かけちゃって。でも、どうしても僕一人じゃ解けなくって…同じ組の人には頼みにくいし……」

だめだめだぁと更に萎れると、くすり、と笑みが降ってきた。
タカ丸が顔を上げて綾部を見上げると、彼には珍しくくすくすと声を出して笑っていた。

「あの、綾部君…?」

「ああ、すみません。気にする事はありませんよ、三木ヱ門も滝夜叉丸も、タカ丸さんに頼ってもらえて嬉しそうですし」

それは笑っていた答えにはなっていない。
でもそれを分かっていて綾部はそう言ったのだろう。
タカ丸は敢えて聞かない事にして、今の会話について考える。

この課題はは組にしか出されていないから、は組の皆は今必死に課題を埋めていることだろう。
何人かで組んで課題に取り組んでいるところもあり、そこにタカ丸も誘われたりしたのだが、着いていけなくて迷惑かけるからと断った。
は組の人と仲が悪い訳ではない。
編入して直ぐの割には仲がいい方だと思う。

でも、何時も頼ってしまうのはこの三人なのだ。
こうやって迷惑かけてしまうのも分かってる。
心のどこかで、彼らなら断らないとさえ思ってしまっている。
それが既に彼らの優しさに甘えてるんだな、そう思ってタカ丸は苦笑した。


「いいんですよ、頼って。私達はそれが嬉しいんですよ」

机にへたり込んだままのタカ丸の頭にそっと手が掛かる。
そのまま髪をさらさらと撫でられて、タカ丸は目を瞑った。
自分の考えてる事がなんで綾部君に伝わったんだろう。
タカ丸はそう考えながらも、何故か嬉しいという気持ちが湧き上がってくるのを感じた。

「ありがとう」

そう呟いたら苦笑が返って来て、髪の一房に口付けが落ちる。


「でも、甘えるのは私だけにしてください」

そう言った綾部の声に懇願の色が見受けられて、タカ丸は思わず笑ってしまった。






君に
君達に

出会えた幸せを

何て伝えればいいのだろうか

言葉にする事さえ
勿体ないと思ってしまう

この幸せを






end

→あとがき
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ