綾タカ

□冬至の柚湯
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冬至の柚湯
綾タカ+四年生





「あれぇ?綾部君何持ってるのぉ?」

先に風呂場に入っていたタカ丸は、後から来た綾部の腕に何やら見慣れない物を見付けて声を掛けた。

「柚ですよ」

そう言ってすたすたとタカ丸の横を通り過ぎると、湯の張った風呂に柚を落した。
ぼちゃぼちゃと音を立てて湯の中に落ちた柚は、暫くすると浮かんできた。
思わぬ物を風呂に入れた綾部をぽかーんと見ているタカ丸に、綾部は振り返る。

「私の村では今日みたいな日には、風呂に柚を入れるのですよ」

「今日みたいな日?」

不思議そうに綾部と風呂の中の柚を交互に見ていたタカ丸は、気になる言葉に首を傾げる。
すると、綾部は髪と同じ藤色の瞳の中に微かな笑みを浮かべる。

「ええ、今日みたいに日の入りが早い日には、この様に柚を風呂に入れて体を温めるのですよ」

綾部はそう言って風呂の中に入るが、先客の二人から怒りの声が響く。

「喜八郎ぉお!貴様私に水しぶきを掛けるとはいい度胸だな!!さては、風呂に入っている私の美しい姿に嫉妬でもしたか。それなら仕方がない」

「自意識過剰も大概にしろ、滝夜叉丸。そんな事より喜八郎、言葉が足りないぞ。タカ丸さんが困っているじゃないか」

ふふんと変な動きをして体を見せつける滝夜叉丸に三木ヱ門は冷めた目を向けて、綾部の後ろで更に深くを傾げているタカ丸には笑顔を向ける。
そんな三木ヱ門に、隣で滝夜叉丸がそんな事とは何だそんな事とはっ!と言っていたが、全て無視する。

「タカ丸さん、今日は一年で一番太陽が出ている時間が短い日なんですよ。今日から冬が始まる合図みたいなもので、そんな日には寒い冬に備えるために色々な事をするのです」

一度言葉を切ってタカ丸を見ると、ふんふんと興味深げに頷いている。
それを見て三木ヱ門は話を続けようとしたが、滝夜叉丸が出張ってきた。

「地方によっては、柚などの柑橘系の果物を湯に浮かべて入るんです。それも、柚には体を温める効果があったり、あかぎれした体を癒す作用があると言われているからです。まあ、私みたいに肌の美しい人間には気休めにしかならないですがね!」

そう言ってふははと笑った滝夜叉丸に、今度は三木ヱ門が話を奪い取る。

「他にも、今日の夕食に出ていた小豆粥や南瓜などを食べて、これから来る寒い冬を乗り切る栄養をつけるんです」

その後も、滝夜叉丸と三木ヱ門が互いを押し退け合いながらあーだこーだと言っているのに耳を傾けながら、タカ丸も風呂に入った。





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