孫富

□呪いを解くには愛の口付けが必要です
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呪いを解くには愛の口付けが必要です
孫富





ぽかんと口を開けて相手を見る。
作兵衛はついにこいつもおかしくなってしまったのではないだろうかと、本気で恋人を心配した。
すると、孫兵はもう一度繰り返す。


「僕は毒人間だよ」


毒虫野郎とか毒虫馬鹿とかならいくらでも聞いたし揶揄されている孫兵だが、毒人間とは聞いたことがない。
しかも本人からときたもんだから、作兵衛は口を開けてその顔を見ることしかできないのだった。


「全身に毒が回ったんだ」

孫兵は作兵衛が停止していてもお構い無しに続けてくるので、作兵衛は益々混乱した。

「え、ちょ、待て!…何、お前毒虫に刺されたのか!?」

「違うよ。そんなへましないし、虫達が僕を刺すなんて酷いことするわけないだろう」

「はぁ」

自信たっぷりに言うが、どこにそんな根拠があるのか。
作兵衛はそれを否定することも面倒臭くて、小さく息を吐きながらそれを肯定してやった。
すると、それに呆れが入っていることには気付いてはいないのか、孫兵は嬉しそうに笑うので少しだけ後悔する。

「で、毒人間が何だよ」

ぶっきら棒に作兵衛が話しを促すと、孫兵は思い出したように先とは異なる笑みを作兵衛へと向けた。
それに眉を寄せて孫兵を見ると、その両掌によって両頬を取られる。


「このままだと全身に毒が効いて動けなくなる」

「…だから?」

「だから、…解毒が必要なんだ」

要領の掴めない話しに、作兵衛が無言になるのに、孫兵はつまりと口を開く。

「作兵衛が僕を助けてくれ」

つまりは作兵衛に何かしてほしいと言うことなのだが、その何かが何なのか分からなくて作兵衛は困惑した。
それは見越した事だったのか、孫兵は更に言葉を続ける。

「作兵衛しか僕を助けられないんだ」

少しだけ悲しそうに微笑んでそう告げれば、作兵衛は難しい顔をする。
何をさせられるのかという不安半分、自分しかという言葉の優越感半分といった所か。
暫く考えて、作兵衛はその間じっと相手の反応を待っていた孫兵に観念した。






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