孫富

□それを盲目と言うならば
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それを盲目と言うならば
孫富
※病んでるかも?





ぽたり、と落ちるとじゅうと音を立てて溶けるかのかと思えば、それは水の様にその場に佇む。
指が牙付近を再び押すと、毒液が滴った。
始めの一滴と同じ場所へと落ちた毒は月明かりにてらりと輝いた。


「作兵衛」


いつの間にか二人でいる時は下の名前を呼び合う様な仲になったのはいつの頃からか。
声に呼ばれて作兵衛は顔を上げて、毒を滴らせた男に目を合わせた。

「簡単に人が殺せるんだよ」

金色の瞳が細まり、孫兵の言葉を合図にしたかのようにジュンコが作兵衛へと身を移す。
するりと首に巻きついて、剥き出しだった毒牙を仕舞った顔を作兵衛の首筋へと寄せた。

孫兵やジュンコが自分にそんな事はしない、そう分かるのに、先程の孫兵の言葉が頭中を渦巻く。
簡単に人が殺せる――――恐らく大人は一滴では致死量にはならないだろうが、小さな命なら確実に殺せる。
致死量でなくとも即効性のあるこの美しき赤蛇の毒は人から正常を奪い、簡単に命を摘み取らせる。
作兵衛はその光景を何度か見た事があった。


くっと首との間合を詰める様に更に身を寄せたジュンコに、喉が押し付けられるような感覚に陥る。
それに命を奪われると考えると、作兵衛は微かに身体を強張らせた。


(ああ、でも…)


思い至り、後ろから逃がさない様に作兵衛を閉じ込める孫兵を見上げる。
何も言わず、何か意思を宿している訳ではないのに瞳は静かに孫兵を映す。





もしこのまま死ぬとしたら、
俺は最後までお前を見ていたい






end

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