孫富
□のーもあ
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のーもあ
孫富
ケンカップルです。
富松作兵衛は苛々していた。
それを隠す事なく部屋で胡坐をかいている。
その雰囲気に、同室の二人が隅で小さくなっているのには気付く事はなく、作兵衛は床をどんっと叩いた。
「あーーむかつくっ!!」
決して小さくない声で叫んだ作兵衛に、今まで大人しくしていた三之助が意を決したように話し掛けた。
「な、なあ作兵衛。何をそんなに怒ってるんだ?」
「そ、そうだぞ。私達で良かったら、話を聞くぞ!!」
三之助に上便して左門も声を掛ける。
左門の言葉に、横に居た三之助が何度も頷くが、作兵衛から返って来たのは哀しい程冷たいものだった。
「あ゛あ゛!?」
「「すみませんでした!!」」
言葉だけでなく、鋭い眼光も向けられて大人しく謝った二人は、すごすごと元の場所へと戻って行く。
左門は部屋の隅で膝を抱えて座ると、同じ格好の三之助と額を合わせる様にして話す。
「作兵衛に何があったんだ!?」
「俺も知らねぇよ」
「私達を迎えに来た時はもうあんなんだったよな?」
長屋に帰る途中で『たまたま』作兵衛に出くわしたのを思い出して三之助は頷いた。
手に持っていた縄をぎりぎりと締め付ける様に縛り付けて、先に捕縛されていた左門と同様投げ出された。
その縄の先はしっかりと作兵衛に握られていたが。
「ああ。何時もよりきつく繋がれたよな。見ろよ、痕が残ってる」
装束を捲って赤く擦れた痕を指でなぞる三之助を見ながら、左門は手を顎に当てて考える。
あそこまで怒る原因は何か。
自分達が原因ならば、探し出してくれた時にもっと口撃をされるはずだ。
「となると、私達以外が原因か」
左門には珍しく、大人しく呟くと、それに三之助が反応した。
「俺達以外か…。おい左門!今日も迷子で学園中を走り回ってたんだろ?何か見てたり聞いたりしてないか!?」
その言葉に左門が首を傾げながら今日あった事について思いを巡らせる。
「今日…私が見たのは、保険委員会が総勢で学園中の落とし紙を補充していたみたいだが至る所で落とし穴に嵌まっていて、それを面白そうに作法室で作法委員会の面々が見ていて立花先輩が綾部先輩をよくやったと褒めていらしたから恐らく立花先輩の指示だろうな!火薬委員会は火薬庫の整理をしていたし、用具委員も用具庫の整理と在庫確認をしていたし貸し出した物の状態確認をするために何人か学園中を回っていたな!学級委員長委員会は学園長室でお茶をしていて、生物委員会は何時も通り孫兵の飼育している毒虫達が逃げ出したらしいのでそれを捜索していて見付けたら捕まえるように言われた!図書委員会は図書室で書庫の整理と貸し出しをしていて、会計委員会は辿り着けなかったから分からん!!あ、体育委員会は裏裏山にまで塹壕堀りに行ったんだってな!!」
一通り言い終えた左門に三之助が、お前そんだけ学園中回って会計室に辿り着けなかったのかよ!と至極まともな意見を言った。
「作兵衛が探してくれて助かった!」
「本当にな…」
はぁと溜め息を吐いた三之助には左門が言った中に、特に作兵衛が不機嫌になる要素は見付からなかった。
そこで、もう一度作兵衛の様子を窺おうと作兵衛を見遣ると、自分達の前に大きな影が掛かる。
そろそろと視線を上げた三之助は、眼前の光景に声を上げそうになり必死でそれを飲み込んだ。
「何、してんだ?お前ら」
にっこりと弧を描く口元とは対照的に、赤褐色の瞳には鋭い光を帯びて二人を見ている作兵衛に、左門と三之助は身を寄せ合って震える。
「べ、べべ別に何もねーぞ!!」
「そ、そうだ!作兵衛は気にする事ないからな!!だ、だからそんな怖い顔するな!!」
必死に宥めに入る左門と三之助を一瞥すると、作兵衛は踵を返す。
その際、軽く顎をしゃくって合図をする。
「もう寝るぞ、おめぇら」
「「はーい」」
「返事は短く、な」
「「はい!!」」
作兵衛の雰囲気に大人しく返事をした二人は作兵衛に気付かれない様に溜め息を吐くと、明日には怒りが収まっていることを祈って布団に潜ったのだった。
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