孫富

□特別権利
1ページ/4ページ

特別権利
孫富 

19期24話『消えた手裏剣の段』ネタバレ有






「ごめーん、お待たせ左近…って、藤内!?作兵衛!?どうしたのその怪我!!?」

医務室に入るなり二人の状態に悲鳴を上げて騒ぎ出した数馬に、左近と藤内、作兵衛は顔を見合わせる。

「いやあ、自主練用の手裏剣でちょっとね……」

数馬に視線を合わせて頬をぽりぽりと掻きながら藤内が言いにくそうに話し、隣で作兵衛がこれだという風に手裏剣を手で弄ぶ。
二人の後ろでは、左近が申し訳なさそうに小さくなっていた。
そんな三人を見渡して、数馬はとりあえず、と口を開いた。

「話しは治療しながら聞くから、二人ともここに座って。左近、交代時間だから後は僕がやるからいいよ」

にこりと笑って、自分の前をとんとんと叩いて藤内と作兵衛を促しながら数馬は左近を見遣った。
大人しく二人が数馬の前に座るのを眺めながらも出て行こうとしない左近に、救急箱から道具を出している手を止めて、数馬は再度左近を見る。
出て行くことに躊躇している様な左近に首を傾げた数馬が話しかけようとしたら、座っている二人が左近へと振り向いて先に話し掛けた。

「俺達は気にすんな。数馬に手当てして貰うし、手裏剣も無事戻って来たしな」

「そうだ。気にする事ないぞ」

そう言って笑った二人に、左近も笑顔で深くお辞儀をすると数馬にも軽く会釈して、じゃあ後おねがいしますと言って医務室を出て行った。
それを見送った数馬は、出口の方を見ていた藤内の頭を掴むと、傷口に消毒液をたっぷり含ませた脱脂綿をぐりぐりと押し付けるのだった。








後方の医務室で二人分の悲鳴が聞こえたのを軽く聞き流して、左近はほっと息を吐いた。
思ったよりも怒られないで良かった、と安堵しながら。


「おお!?そこに居るのは、二年い組川西左近!!」

委員会の仕事が終わってはもうやる事がないので、長屋へと足を進めていた時、己の名を呼ぶとても元気な声に足を止めた。
左近が声の方に身体を向けると、左門が此方に突進してくる姿が見える。
それに何の身構えも出来る時間はなくて、見事にすっ飛ばされた左近をそのままの勢いで掴むと、左門は突っ走る。

「作兵衛が藤内と小競り合いした様だな!!今医務室に居るらしいから、連れてってくれ!!」

「待っ…、そっち、は…、医務室じゃない、ですよ!!」

強引に引っ張られ走らされているので、息が乱れる左近が何とかそう絞り出すと、左門は急停止する。

「じゃあこっちか!!」

そう言って又もや違う方向に走り出した左門に左近は引っ張られる。
急停止に急発進と続けられ、気持ち悪くなり始めた左近は身が持たないと左門を全力で止めに掛かった。

「こ、こっちじゃないです〜!僕が案内するんで、神崎先輩、ちょ、待って下さいぃぃ」

半泣きで左門の前に回り込み全身で押える左近に、左門はわかった!!といい返事をして大人しくなる。
左近は左門に忍び装束の袖を掴ませると、医務室への道を進み出した。


「ところで神崎先輩、何処で富松先輩と浦風先輩の話聞いたんですか?」

「ん?聞いたんじゃない、見てたんだ!!」

止めに入ろうと思ったら、いつの間にか違う場所に居た!と続け、左門はからからと笑った。
その後ずっと二人を探していたらしい左門に、決断力のある方向音痴は伊達じゃないんだなぁと同情的な目線を左近は向けたのだった。

そうして、少し目を離すと手を離して何処か行ってしまいそうになる左門を何とか連れて歩き医務室の前まで行くと、廊下の向い側から来る二人の若草色が見えた。
左近がそれに気付いて立ち止まると、向かいの一人と目が合う。

「あっ!孫兵!!三之助!!」

左近が声を掛けようと口を開くが、後ろを付いて来てた左門がひょっこりと顔を出して指を指して叫んだ。








.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ