孫富

□日の赤、黒の夜
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日の赤、黒の夜
孫富










今日でここに来るのは最後だ。
孫兵は、そう自分に言い聞かせて前を見る。
眼前に広がるのは、幾つもの墓標。

そこは、生物委員会でつくった墓場だ。
始めは、孫兵が埋葬して墓をつくっていたが、いつの間にか生物委員会で飼育していたものを弔う場となった。
一つ二つだった墓標は、今や見渡す限り立っている。
それを見て孫兵は両手を握り締めた。


「孫兵!!またここに居たのか。探したぞ〜」

来訪者の声に振り向くと、思った通りの人がいた。

「竹谷先輩……委員会中にすみませんでした」

「ま、今日は虫達の脱走もなかったけどな」

竹谷はニカッと笑った。
そして墓を見渡す。

「増えたな」

「…はい」

孫兵のその雰囲気に、竹谷は笑顔を消して真面目に孫兵を見遣る。
その気配に、孫兵は竹谷を見上げた。

「孫兵、生き物はいつか必ず死ぬんだ」

「…分かっています」

そのまま無言の時間が続く。
竹谷は孫兵の次の言葉を待っていたが、出てくる気配はなかった。

本人も分かっているだろう。
それでも、やるせない思いが残るのだ。
自分もこの5年、生物委員に所属して何度も感じた思いだ。

「ん?」

視線を下に向けると目に留まるものがあった。
しゃがみ込んで、それを手に取る。

「これはカメ吉の墓標か?」

「はい。もう随分前なのでかなり傷んで文字が見づらいですが」

そう言われて、辺りを見回すと他にも何個か木が割れているものや、文字が擦れて見えずらいものがある。
それらを一つ一つ見ていると、孫兵から声が降ってきた。

「今度、委員会でこれらを作り直しませんか?」

「…そうだなぁ」

竹谷は考えるように手元の墓標をいじっていると、立ち上がった。
その顔にはまた何時もの笑顔が戻っていた。

「んじゃ、後でやるか!」

「はい」

幾分か嬉しそうな孫兵を見て、何かを思いついたように竹谷は口元に笑みを浮かべる。
でもそれは一瞬だったので、孫兵に気付かれる事はない。

「そういや俺、孫兵に言うことがあったからここ来たんだった!」

「何ですか?」

「俺用事でこの後の委員会抜けるから、後は孫兵に頼もうと思ってな。つっても、戻ったら1年達には解散言うから最後に飼育小屋の鍵の確認だけなんだけどな!頼めるか?」

孫兵は頷いて、竹谷に着いて行こうとしたが、竹谷がそれを手を上げて制した。

「急ぎじゃないし、直ぐに戻らなくても大丈夫だ」

気持ちを汲んでくれた竹谷に軽くお辞儀をすると、竹谷はもう一度笑顔を向けると後ろ手で手を振ると行ってしまった。









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