孫富

□気付いて
1ページ/3ページ

気付いて
孫(→←)富






俺は息を止めてその場へと身を潜める。
隣で伊賀崎が同じように固唾を飲んで目先の状況を見定めている。

目の前には、どこかの城の忍者隊がドクタケ忍者と睨み合っていた。
いわゆる、一触即発状態だ。


なんで俺達がこんな状況に鉢合わせたかと言うと、例によって迷子二人を探していた俺は、同じく何処かへ行ってしまったジュンコを探していた伊賀崎に会った。
自分達の状況を確認した後、互いに捜索を再開しようとしたところ、この騒動が眼前で起こったのだ。
巻き込まれては敵わないと二人で目を合わせると、近くの茂みへと隠れた次第だ。


俺が今までの過程に気を飛ばしていると、伊賀崎が俺の肩を突き注意を促す。
俺は伊賀崎の方へと顔を向けると、思いの外近かった伊賀崎の顔に触れそうになる。
思わず声が出そうになった口を伊賀崎の掌で塞がれて、更に顔を寄せられる。

(しっ!見付かるよ、富松)

そう囁く伊賀崎に見惚れたのは一瞬で、俺は小さく頷くとそれを確認した伊賀崎の手が俺の口から離れた。
瞬時に顔を伏せて赤くなったそれを隠す。
そのまま静かになった俺に安心すると、伊賀崎はまた前へと目を移して様子を窺っている。


どくんどくんと打つ心臓の上に俺は掌を当てて押える。
鎮まるように、伊賀崎に聞こえないようにと身を縮めてみるが、そんなの効果が無いことは俺が一番知っている。
伊賀崎が隣に居ると何時もこうなのだ。


何時からだろうか。
俺が伊賀崎を意識するようになったのは。
その感情に気付いてから俺は伊賀崎の傍に居ると、胸が高鳴りそれと同じ位締め付けられる。


がさりと音がして、俺ははっとする。
下げていた頭を上げて前を見ると、ドクタケとどこかの忍者隊はいがみ合いながらも別々の方へと別れて行く。
伊賀崎が戻って来ないかを確認しに行って、俺はその場へとへたり込んだ。
大事にならずに済んだ安心感と、伊賀崎が傍に居た緊張からの解放とで俺は大きくため息を付く。
大半は後者の為であるが、それは俺の記憶が伊賀崎の横顔とか行動しか覚えてないので明確な事だった。

未だに頬のほてりが冷めてない気がして頬に手を当ててると、伊賀崎が戻って来た。

「どうやらもう大丈夫みたいだよ」

「ぉ、おお、そうか。巻き込まれなくて本当に良かったよな。ドクタケに会うとろくな事がねぇし」

「確かに迷惑にしかならないね。…それじゃあ、左門と三之助探しに行こうか」

伊賀崎が未だに座り込んだままの俺に手を差し伸べてきた。

「…いいのか!?」

「その後でジュンコ探してくれるでしょ?左門と三之助探してる時に見付かるかも知れないし」

「ああ!助かる!!ありがとな!」

俺はそのまま伊賀崎の手を取ると立ち上がり、俺より少し背の高い伊賀崎を見た。
俺は伊賀崎が好きだ。
なあ、気付いてくれ。
そう一瞬だけ握っていた手に力を込める。

伊賀崎に笑いかけると、伊賀崎は別にと言って迷子達を捜索し出した。
俺はその背中を見ながら、もう一度だけ心中で呟く。



気付けよ
気付いてくれよ

この想いに






end

→孫兵のターン

.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ