孫富

□特別権利
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端整な孫兵の顔に微かに困惑が見て取れる。
作兵衛はそれに少し快くするが視線の鋭さを変える事はない。
暫くして、差し出されていた孫兵の手が下がり作兵衛の顔を捉えた。

そっと、傷に障らない強さで。

そのまま作兵衛に顔を少し近付けた孫兵は呟いた。

「作兵衛、言ってくれないと分からないよ」

孫兵が、作兵衛の言いたい事を余す事無く聴き取ろうと、真剣に、目を逸らさずに見遣る。
それに作兵衛は漸く、小さく口を開いた。

「俺や飼育動物以外の頭、撫でんなよ」

紡がれた言葉は、何とも可愛い我儘。
先程まで射る様に睨んでいた赤褐色の瞳が揺れていて、それに、一瞬呆けていた孫兵の意識が浮上させられる。
言って顔を俯かせた作兵衛の頭の上に手を乗せると、ゆっくり撫でる。
ぴくんと反応した作兵衛は顔を上げて孫兵を見て、固まった。

柔らかく柔らかく微笑むその姿に。
何時もは何処か冷たい色をした金色の瞳に宿る温かい光に。

それを一身に受ける作兵は、その気色に見とれ、何だが恥ずかしく居た堪れなくなった。
じわじわと赤くなる作兵衛に、孫兵はそっと囁いた。

「僕がこういう風になるのは作兵衛だけだよ」

まるで自分がどの様に作兵衛を見ているか分かっている様な台詞に、作兵衛は更に顔を赤く染めた。
それにもう一度孫兵は柔らかく微笑んで、作兵衛を優しく抱き寄せた。
抵抗なくその胸に顔を寄せた作兵衛に、珍しいと思いながら更に強く抱きしめるのだった。










「私達、完璧に空気だな!」

「言うな左門」

「あの二人、何処に居るか忘れてるよね」

「だね。あ、数馬手当てありがとな」

「どういたしまして!」

「俺…部屋帰るの怖ーな」

「…私もだ!」

「どういう事?」

「作兵衛、孫兵の事に関してだけは心狭いからな!!」

「この間なんて…、数日作兵衛見かけなかったからな」

「それってさぁ…」

「ああ!作兵衛が私達を探しに来てくれなかったんだ!」

「俺は左門みたいな迷子じゃないから、ただ避けられてただけだ!……喋ってくれない時もあるよな」

「そうだな!」

「…因みに、何したんだ?」

「あ、僕も気になる。そこ!」

「何って……なぁ?」

「ん?あの時は…、ジュンコが迷子になっていたのを私が遭遇して、孫兵に返してるところを見てたみたいなんだ!!」

「俺は食堂で隣の席になっただけだぜ!?」

「……」

「……」

「わははは!私達は作兵衛いないと、生活できないからな!」

「そんなこと豪語すんなよ!!」

「…僕、二人が付き合いだしてから、苦労するのは作兵衛だと思ってたけど……」

「知らない所で、とは言え、凄い愛されてるよねぇ孫兵」

「でも孫兵も、作兵衛に内緒で色々やってそうだな!!」

「はぁ?例えば?」

「作兵衛の悪口言った奴を毒虫で抹殺したり、とか!!」

「「「(ありそう……)」」」

「はっ!も、もももももしかして僕、孫兵に抹殺される!?」

「怪我負わせたからねぇ」

「もしそうなら、夜に寝具に忍ばせたりしてな!数馬も危なくなるな!!」

「俺達だって、作兵衛の前で孫兵に抱きついたんだぜ?」

「明日、皆無事に会えるといいな!」

「洒落にならね−よ左門…」

「なななな何で僕まで巻き込まれるの!?」

「僕だってとばっちりだよぉぉおおお!?」







end

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