頂*捧*企

□「君の知らない物語」の鉢屋視点や告白時の話
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「ほら、着いたぞ!」

ハチにも聞こえる声で言えば、い組と何やら楽しそうに話していたハチも顔を前へと向けて広がる空間を追うように空を見上げた。
同じく雷蔵と兵助、勘右衛門も空を見上げたので私も同じくそれに倣った。

視界に映る全てが輝く星とそれを覆う濃色の夜空に染まる。
雲ひとつなく広がる世界に、感嘆の声と溜め息が聞こえてきてその中に聞きなれた鳴き声もあった。

星空から視線を声の方向、ハチへと移せば、瞳を緩ませ口に柔らかな曲線を描く笑みを湛えて星を見ていた。
久しぶりに見た優しいハチの笑顔に私の鼓動の音が煩く鳴る。
馬鹿みたいに制御の効かない胸を抑えて、ふとハチが星空から視線を外す気配に私は急いで空へと顔を戻す。
それでも、ハチの笑顔の見れた嬉しさから口元が緩むのが止められなかったが。




星空観賞は星座探しへとなって、まず始めに簡単な夏の大三角形を説明する。
隣の雷蔵に話しかけるようにしながらもその雷蔵の隣にいるハチにも分かるように説明しているが、きっとハチは分かってない。
雷蔵の持ってきた星座の本と本物の星を見比べては首をかしげているから、まだ見つかっていないのだろう。

それに、早く話しかけろよとハチの見えない場所で私の脇腹を抓る雷蔵の手が地味に痛い。
雷蔵に視線を向ければ、その口からは星座の話が続いているが、目は星について語ってなどいない。
雷蔵に星の説明をしつつじわじわと雷蔵の視線に追い込まれた私は、意を決して、ハチに話しかけようとこっそり雷蔵越しにハチを覗った。


「三郎?」

動きと言葉を止めた私は雷蔵に体を揺すられるが、何も言うことができなかった。
先程まで、楽しそうに星を見ていたハチの瞳は今は泣きそうになっていてそれを隠すように必死に星を睨みつける姿から目が離せない。

笑ってくれ、それかせめて貯め込まずに私の前で泣いてくれ

思わずにはいられなかった。
それでも私はそんなハチを慰めることもできず、抱きしめる資格を有していない私は静かに星を見上げて両手を強く握りしめた。





私の星空観賞は、結局ハチを最後まで笑顔にはできなかった。
ハチは溜め息や考えること以外に呆けることも多くなって、偶に話していても私を見ていない時がある。
やるせなくて、全てを打ち明けて欲しいがそれが他の人との色恋事ならば私はハチに冷静に相談になど乗ってやれる自信もなく。
ならば私が思いを告げてハチの生活を一変させてハチの中を占める何かを吹き飛ばそうとも思ったのだが、やはり拒絶されるのを考えるとその言葉は出せない。

我が身の可愛さに、雷蔵と演習を組むと言った時でさえハチは他の奴と組んで私達を負かすと寧ろ闘志を向けられて、偶には一緒に組もうという言葉さえ出てはこない。
確かに私は自他共に認める雷蔵好きではあるが、それでも今の友人という位置ならばそんなひと声があってもいいのだが、今まで二人組の演習の時にハチに誘われたことは一度としてない。


「…雷蔵。私って、あいつの友じゃないのか?」

「さぁ」

私の零した嘆きに雷蔵は笑って肩を竦める。
本気の悩みにそんな笑みを向けられて、私は珍しく雷蔵に非難の目を向けた。
すると雷蔵は私へと追い打ちをかけてきた。

「もしかしたらハチは、三郎の事を友とは思っていないのかもね」

「っな!」

絶句する私を面白げに見て雷蔵はやれやれと息を吐いた。

「ハチもあれだけど、三郎もだよね」

「私には何の話か分からないんだけど?」

首を傾けて雷蔵を見つめれば、雷蔵も私に首を傾ける。
可愛いと思って顔を緩めると雷蔵は今度は私とは正反対に真剣な顔になった。

「しょうがないから、僕が聞いてきてあげるよ」

「え」

「ハチに、三郎が嫌いなの?って」

「それで頷かれたら私は立ち直れる自信がない…」

雷蔵の真剣な顔から逸らせて顔を下へと向ける。
もっと遠回りに聞いてくれてもいいのだが、それを雷蔵に言えばまた悩んでしまうので止めておいた。

「じゃぁ、三郎が聞く?」

「……お願いします」

好きか嫌いかでもはっきりすれば、此方にも動きようはあるだろうと、雷蔵の言葉を受け入れて頼んだ。
雷蔵はそれに少しだけ安心したように笑って私の頭を撫でてくる。
私はそれが嬉しくて、ハチと違う意味で好きの中ではやっぱり雷蔵が一番好きだと抱きついたら、雷蔵も半分感情のこもっていない声で僕もだよと言って私の背中をぽんぽんと二度叩かれて励まされているような元気付けられているような気持ちになった。





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