現パロ
□授業と放課後とお隣さん
2ページ/7ページ
「お疲れ、はち」
伏せていた頭をぽんぽんと撫でられて竹谷が顔を上げると、前の席の雷蔵がにっこりと笑顔を浮かべている。
竹谷はそれに頷くともう一度机に伏せて、雷蔵が頭を撫でてくれるのを堪能した。
暫くそうして顔を上げない竹谷に雷蔵が尋ねた。
「さっき、」
「…ん?」
「三郎に何かされたの?」
「……セクハラ」
一拍置いて、雷蔵が溜め息を吐く。
ふわんとした雰囲気が無くなったので雷蔵の方を竹谷が見ると、その目は珍しく鋭くなっていた。
何時もの雷蔵からは考えられない表情に、その周りに居たクラスメイトが驚くのを横に竹谷は困った顔をするだけだ。
「あいつ一度絞めとく?」
「いやぁ……雷蔵がやっても喜ぶだけだろ」
「………………チッ」
本当に困ったもんだと竹谷は苦笑する。
雷蔵は三郎の従弟で、竹谷と三郎の関係を唯一知っている人物である。
昔病弱だった雷蔵はそれはそれは大切に三郎が面倒を見ていたため、三郎にとっては目に入れても痛くない程大切なのだ。
行きすぎな程に。
そんな大好きな雷蔵に、うざいと言われても大好きに変換する従弟馬鹿が雷蔵に言われたぐらいで止める筈がない。
「大丈夫だよ雷蔵。今日の放課後私が話しつけるから!」
「…そう言って一ヶ月経つよ?」
「だって、それは、っ……」
黙り込んでむーと唇を尖らせた竹谷に、雷蔵がやれやれといった感じで雰囲気を何時ものそれに戻す。
最後に柔らかく竹谷の頭を撫でて席を立ちあがった。
「分かった!はちが耐えられなくなって殴りに行く時は言ってね。僕も着いてくから!」
「ああ…うん。…頼りにしてるわ……」
恐らくそれは三郎の終了である。
雷蔵が本気で怒るところなど、もう二度と見たくないと背筋を震わせた竹谷に雷蔵が促す。
「ほら、はちお昼にしよ」
「お、おう」
竹谷は席を立ちあがってクラスを出て食堂へと向かうが、雷蔵と話し込んでいたので出遅れてしまう。
「うわ〜、遅かったかぁ…」
「並んでるねぇ」
食券販売機の前の列に二人して苦笑するしかない。
本日の午後最初の授業が体育なので昼休みは早めに切り上げなければならなく、食券で並んで、食べ物で並んで、下手したら席を取るのに時間を取るかもしれない。
「売店行く?」
「う〜私のコロッケ定食ぅぅ」
泣いてもどうにもならないので竹谷は雷蔵に続いて売店の方へと歩いて行くと、その目の前に二枚の食券が差し出された。
急いでそちらへと目を向けると笑顔とかち合う。
「二人とも遅いから取っといたよ〜」
「「勘ちゃん!」」
重なった声に勘右衛門が笑みを深くする。
その勘右衛門の両手には袋がぶら下がっており、竹谷と雷蔵が向かおうとしていた売店からの帰りらしい。
食券を受け取り、食堂のおばちゃんに手渡して料理を待っている間に竹谷は尋ねる。
「勘ちゃん今日は売店?」
「違うよ〜何時もの」
「…何時もの、食後のデザートとおやつか」
「うん!」
そう言って袋に一つに手を入れて取り出したのはデザートとは言い難い菓子パン特大サイズ。
勘右衛門が美味しそうに頬張るのを見て雷蔵は笑いながら注意した。
「もー勘ちゃん行儀悪いよー」
「んらっぇまむぉもん」
「何言ってるか分からねぇし…」
「はっもりゃんむぁん?」
食べながらで何を言っているかは分からないが、勘右衛門が菓子パンを差し出しているところ、恐らく勧めているのだろう。
竹谷も雷蔵も同時に首を振って断った。
「お残しは許しまへんで〜!!」
食堂のおばちゃんの名物に送られて料理を受け取り、勘右衛門に案内されて席へと向かう。
そこには熱心に冷や奴を見つめる人物が座っていた。
「兵助」
「あ、勘ちゃんお帰り。雷蔵と竹谷さんも一緒か」
「うん、途中で見つけた」
兵助の隣へと勘右衛門が座り、二つ目の菓子パンを開ける。
それと同時にテーブルに置かれた袋から見えたのは、まだまだある菓子パンと菓子の山である。
毎日の事ながら、これだけの量を放課後までに平らげてしまう勘右衛門の胃袋に不思議を覚えつつ、竹谷と雷蔵は自分たちの昼食へと箸を付け始めた。
兵助と勘右衛門はクラスは違うが、入学してすぐにあった合同授業で面白いぐらい話しが合って仲良くなり、今は四人で昼食をするのが普通となっている。
偶に乱入者も入ってくることはあるが。
竹谷にしてみれば、少し変わったところもあるが良い友人である。
そう、兵助は県内のトップの進学校に行ける程の頭を持ちながら、学食で毎日豆腐が出る高校がこの学校であったために受験したとしても。
勘右衛門も同じく頭脳明晰でありながら、こちらも学食が毎日豊富であり、リクエスト日にはどんな料理であっても作ってくれることからこの学校を選んだとしても。
竹谷にとっては良い友人なのである。
しかし竹谷の預かり知らぬところでは、顔の良い面子に囲まれた竹谷が誰を落とすか見守ろうとか、ファンクラブが竹谷を三人の輪から如何にして外そうかとか、分け隔てなく明るく接する竹谷にどの様に三人を掻い潜りアプローチを仕掛けるかとかそんな画策されていたのは全くの余談である。
→