拍手文
□流し雛
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流し雛
拍手文 孫富
今日は何時も手を焼かせている二人が委員会でいないので、作兵衛は上機嫌だった。
それを表すような穏やかな天気に、更に気分は上がる。
おそらく、今日一日はあの二人に振り回されないで済むと思うと自然と解放された気持ちになる。
今頃、両委員長に扱かれて泣きを見ているであろう二人に心の底で同情しつつ、この短い自由時間を心の底から楽しむつもりでいた。
例えそれが、学園長のお使いの途中でも。
そんな状況に、作兵衛は少し浮かれ過ぎていたのかもしれない。
知らない内に右側に寄り、川の土手の方へと進んでいることに気が付かなかった。
足が土手に掛かり、体が傾いた時にはもう遅かった。
転がらないようにと何とか体勢を立て直そうとするが、重力による加速力に逆らえる訳もなく土手を滑り降りて行く。
「うおっ!!」
何とか転がり落ちる事は避ける事はできたが、土手を落ちる足が止まる気配はない。
作兵衛は、次に起こる入水の衝撃に目を瞑って身構える。
「―むぐっ」
「おっと」
どんっという衝撃と共に感じたのは、水の冷たい感触ではなく温かい人の体温。
それに目を開けると、目の前には見知った顔があった。
「……孫、兵」
「大丈夫か、作兵衛」
「あ、ああ」
そうか、と言って作兵衛の体勢を立て直してくれたのは、同じ三年でい組の伊賀崎孫兵だった。
「入水するにはまだ早いと思うけど?」
少しからかう感じで言われて、自分が孫兵に抱きついた状態にいるのに気付く。
ばっと勢いよく孫兵から離れるが、顔が赤いのが隠せるどころか寧ろ自分から晒す形になった。
それに、今度こそ孫兵に笑われてしまう。
「わ、笑うな!つーか、こんな所でお前何してんだよ!!」
「僕?僕は学園長に頼まれて、金楽寺に手紙を届けた帰りだよ。作兵衛は?」
「俺も学園長のお使いの帰りだ。河原で休憩でもしてたのか?」
「半分はそうかな」
その言葉に作兵衛が首を傾げると、孫兵はおいでと手招きした。
そのまま歩いて行く孫兵に付いて行くと、木陰に孫兵の荷物と一対の紙の人形があった。
それは男と女の姿をしていて、上流の人の服と髪型をしており、とても細かい作りになっている。
「何だこれ?」
「流し雛、だそうだよ」
「流し雛?」
「この人形(ひとがた)を撫でて、自分の厄を移して川に流すと、この人形がその厄を代わって背負ってくれるらしい」
男の人形を撫でながら説明する孫兵に目をやりる。
すると、すっと女の人形を差し出され、それを受け取る。
「でも、孫兵がこういうの信じるとは思わなかったな」
人形を撫でながら作兵衛が言うと、孫兵は少し視線を逸らして川面を見る。
「信じてる訳じゃない。ただ、僕達忍たまは少なからず危険な事に身を投じなければならないから、それが気休めでも少なくなればと思っただけ」
「…そうだな」
撫で終わった人形を男の人形の横に置き、人形台ごと持ち上げる。
それを川に浮かべて、孫兵を見遣った。
「流すぞ?」
作兵衛の視線に静かに孫兵が頷いたのを確認すると、台の手を離す。
ゆっくり、ゆったりとそれは二人から離れていった。
一対の人形が大分小さくなった頃、ひとすじの風が流れた。
ざあざあと吹く風になびく木を見上げると、そこには咲き誇る桃の花。
そこだけ艶やかに咲く花達は春の訪れを匂わせる。
「もうすぐ春だな」
「ああ。ジュンコも目覚める」
「……そうだな」
「不満?」
「べ、別にそんな事言ってねぇだろ!」
「作兵衛は解りやすい」
「っるせぇ!!」
「…口吸いでもしたら、機嫌直る?」
「ば、ばっかじゃねぇの!?春が来るからって、浮かれんな!!」
そんな、麗らかな
春の訪れを待つ
午後の出来事。
end
久しぶり過ぎて、二人のキャラ崩壊だこりゃ!!
孫様S入ってるしぃぃぃぃ(∋k∈;)
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