storyletter.
□雪舞う、この先に。
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チュンチュン、
鳥の囀りに耳を傾ければ今のそれが朝を迎えていることを思わせる。
私は顔にひんやりと吹きつけてくる外気に体をふるふると震わせればもう一度布団を被り直す。
「ぁあ…もぉ…今日も寒いよぉ…」
布団の中で小さく小言を言っていると、
「おい、雪村。
起きたか…?」
−この声は…−
がばりと起き上がれば大きな声で返事をする。
「ひ、土方さんっ…わたし起きてます!!」
「おう、そのな」
「そんな寒いとこに立っていないで土方さんもお部屋に入られたら如何ですか……?」
「…や、起きたばっかりの…一応お前も女だからな。恥らしいことのひとつやふたつあるかと……思ってな。
裏庭の桜の木の下で待ってるからこい。」
……そ、そういえば着崩した寝間着にボサボサの頭…
寝起きの顔に眠そうな目…
わたし…なんて恥ずかしいこと…
「おい、聞いてるか?」
あ、あ!!
「は、はぃっ。裏庭ですね!行きます、身支度が済み次第、待ってて下さい土方さんっ!」
「たいした用じゃねぇから急がなくてもいいぞ」
「い…急がなくていいって言ったって遅かったら怒るくせにっ…」
私は慌てて身支度を整え始める。
それから小さな小鏡をチラリと見やる。
これは先日の秋祭りで土方さんが私にくれたものだ。
なくさないように、
割ったり落としたりしないように、とても大切にしている。
この小鏡を手渡してくれた時の小さく照れたような表情の土方さんが思い出されると、嬉しくて仕方ない。
「ん…どこもおかしくないな!
行こう!早く行かなきゃ…」
「土方さん…!」
「おう、おはようさん。」
「おはようございますっ…、あの…」
「え?ぁあ。
いやな、その…たいした用はねぇ。最近出張やら山崎が密偵中っつーのもあって、内密にしとかなきゃなんねぇ雑務までやらされててな。
だからお前とゆっくり話がしたかった。
晩は島原に行かなきゃなんねぇし、ったく…
頭のかてぇ奴にゃ飲ませなきゃ話になんねぇから困ったもんだよな…」
普段から迫力のある顔の眉間にシワを寄せては話を続ける。
「…土方さん…そんなに忙しいんですね」
「今んとこな、…つぅかそんなとこに立ってねぇでこっちにこい」
「はい、
でも土方さん…」
「ん?」
「体だけは壊さないで下さいね…?今は朝日どころか月明かりさえもお体に触るはずですから…」
「…おう」
そう彼の体はもう普通の人間じゃないんだ。
羅刹
ついに彼も口にしてしまったあの薬。
気丈に振る舞ってはいるけどこの間の昼間ふらついているのを見かけた…。
心配していられずにはいられないけど…
あからさまに「心配」するのを嫌がる土方さん…
だからあえて私は話題を逸らすことにした…
「今日はよく晴れていて気持ちいいですね」
心なしか額に冷や汗が流れたのが見えた気がする。やはり明かりが体力を奪っているんだ…
「ひじ…」
『今日は確かに良い天気だな。』
笑顔には見えなかったけど、彼にとっては笑顔のつもりだったのだろう…
話題を変えた私に気を遣った様子でちらりとこちらを見やった。
私はそれに気づかないふりをするので精一杯だった…
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