その他

□ある春の話。
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春。
卒業の季節。
入学の季節。
桜がオレの頭を通り過ぎる季節。

もともとオレにはそういった類の感慨はなく、教師になった今となっては、ただの年中行事の一つ。
大学に入るために子どもたちが入ってきて、大学に入るために子どもたちが出ていく。
そのための儀式の季節。
まるで、ロボット製作工場みたいだ、なんて思って、口の端だけで笑う。
ただ、それだけ。

ああ、でも、さくらはきらいじゃないかなぁ。

今年も見事なまでに咲き乱れた木を見上げて、ポケットの中に入っていたタバコをグシャリ、握った。

おそらく、この木がなければこの学校に就職することはなかったかもしれない。
見惚れるほど美しい、たくさんの桜の木がある学校は、冗談じゃなく、五万とある。
桜の美しさを売りにしているところも同じ。
だけど、オレにはそれは多すぎる。これくらいがちょうどいい。

 『ふぁーあ…。』

…退屈だ。

欠伸を一つ落として、今まで木の下に下ろしていた腰を上げる。

季節の節目を告げる″式典″は、どうしてこんなにもつまらないのだろうか。

始業式が終わり、そろそろ生徒たちは教室に入って落ち着いた頃だろう。
今年は3年の担任らしくて、大学に入れるために追い出さなくてはならない。
 『はぁ。』
思わずもれたため息。

別に教師の仕事が嫌なわけじゃない。子どもたちが可愛くないわけじゃない。
仕事にやりがいはあると感じるし、生徒もいろんな子がいて面白い。

だけど、春は何となくこんな気分になってしまうんだ。

 『はい、席に着け。ホームルーム始めんぞ。』
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