短編小説
□カランカラン
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わたしが何も言えずにいると、崇も何も言わないから、沈黙が訪れる。
崇はノートの上を、スケート選手が氷上を舞っているかのような滑らかさで、シャープペンを走らせる。部屋の中を、その音で満たしてしまう。
ちぇっ。
なんだか悔しくなって、ぽけっとに入っていたゴムを崇に向けて飛ばす。
――パシッ。
意外なことに、ゴムはまるで吸い寄せられるように、その勢いを失わぬまま崇に向かって飛んで行き、崇の腕で弾ける。
ゴムのその行動に驚いて目を丸くしていると、崇が顔をあげてこっちを見る。
い、痛かったかな……。
崇に痛い思いをさせてしまったかもしれない。
その思いが体中に広がって、なんだか自分までそんな感覚になってしまう。
『ご、ごめ……』
――はぁ。
少し、目を伏せて息を吐き出す崇。
それでも怯んだりはしない。
だって、知っているから。
『……いいよ。』