時夢の狭間・長編
□蔵馬夢・8
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蔵馬に気付かれない様に、足音を頑張って消しながら歩くサキ。
(まだ、気付かれてない……よね?)
サキは、きょろきょろしながら脱走を試みている。
お目当てはもちろん、人間界のイナリ寿司。
……なのだろうな。と考えながら木の上からサキを観察している蔵馬。
サキは今だに木の上にいるオレに気付かずに、辺りを警戒しながら脱走中のご様子。
強いのか弱いのか天然なのか、たまにわからなくなるな、サキ様は。
(危なっかしいな……;)
周りを警戒するあまり、自分の足元は見えていないようだ。
ついでにオレのいる木の上も。
そして。
べしゃっ。
木の根につまずいて、蔵馬の予想通り思いっきりコケた。
(顔からコケたな……;)
「フッ……」
思わず笑いをこぼした蔵馬の声に、サキの耳がぴくり、と反応する。
「く、蔵馬……」
蔵馬は銀の毛並みをさらり、となびかせながら、木の上から降り立った。
「何処へ行くつもりだ?」
少し厳しい口調でそう問い掛ける蔵馬に、サキは耳を垂らしながらびくり、と後退りする。
「ぅ、ごめんなさ――」
「オレは何と言った?」
サキの謝罪を遮り、わずかに悲しそうな顔をしてそう問う蔵馬。サキは“わからない”と言った様に、こてん、と首を傾げる。
――かわいい///――いや、そうじゃなくて。
蔵馬は軽くため息をつきながらサキに言った。