時夢の狭間・長編
□蔵馬夢・6
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サキは蔵馬の方に向き直ると、ゆっくりと首を横に振った。
「……好き?」
あまりに唐突な質問に、頭の中が真っ白になってしまう。
みるみる赤くなってしまっているだろう自分の顔と、それを隠してくれているだろう薄闇に少し感謝した。サキはわずかにこくん、と首を縦に動かす。
気が付いたら、キスされていた。
蔵馬は愛しそうにサキの後頭部を軽く固定し、触れるだけのキスをサキへと落としている。
――ほんの一瞬だったのに、とても長い時間に感じた。
「オレも、好きです」
息がかかる程近くで蔵馬はそうつぶやいた。
「……じゃあ、また明日」
「あ、うん……///」
真っ赤になっているサキを残して、蔵馬は足早に来た道を戻り始める。
(だめだ……/// 何で“面倒”と思っていたのか理由を聞こうと思っていたのに)
他にもいろいろ聞きたい事も話したい事があったのに、上手く話が出来なかった。
しばらく歩いたのに、蔵馬の心臓はまだわずかに早いままだ。
(……妖狐の頃の感覚と、ずいぶん違うな)
妖狐の頃は、どちらかと言えば体が心を“支配”している感じだった。
けれど……今は。体が心に“引きずられて”いる感じだ。
焦がれる気持ちなら妖狐の時もあった。
けれど、それが何倍にも膨れ上がって際限がない感じがするのだ。
サキの事を考えるだけで、心臓が波打って来る。体を動かしているのは心なのではないか、と思ってしまう程だ。
(これが……“人間”の感覚なのか? ///)
初めて人間の母を慕った時以来、初めて感じた“人間”としての恋愛感情に、蔵馬はとても戸惑っていた。