時夢の狭間・長編

□プロローグ
2ページ/3ページ


「あれ……ここに、こんな道あったかな?」

 いつもと同じ帰り道。緑色の街灯に照らされた脇道を見つけた。明らかにお化けでも出そうな、しだれ柳と石畳の小道。
 まるで何かに誘われるかのように、その小道に足を踏み入れた。




 †




 わずか2人程しか入らない狭い店が、その道の奥にあった。古めかしい駄菓子屋のような、木でできた素朴な店。それでいて懐かしさも感じる。
 棚には菓子ではなく、いろいろな宝石やアクセサリー、鉱物の原石などが所狭しと並べられている。
 目に付く所に人の姿は無く、店員も見当たらない。どこかに出て行っているのだろうか。

 目に映る宝石たちは、どれも美しい輝きを放っている。どこかに照明があって照らしているのかと思ったが、それらしいものは天井を仰いでも見当たらなかった。

 数ある宝石の中で目についたのは、ひときわ美しい輝きを放つ、アクアマリンのブレスレットだった。
 日の光を受けて輝いている海を思わせる、空色の宝石。

(これ、いいなぁ……)

 理由は分からない。でも、どうしてもそれが欲しくて値段を確認する。

(高っ!)

 持ち合わせで足りるのか不安になり、財布を確認する。どう見てもカードが使えるような店には見えない。
 ……どうにか買えるだけの持ち合わせはあった。

「それにするのかぇ?」

 背後から聞こえた声に、心臓が飛び出しそうになった。
 振り向くと、巫女さんの服を着た小さなおばあさんがちょこんと座っている。

 買わない、という選択肢は、頭の中から消えていた。
 滅多にそんな買い方はしないのに。値段は少し高かったそのブレスレットを──


 衝動買いしてしまった。


 とても気に入ったから、寝る時にまで身につけて……。



 †





「サキ……レは…………のが……だったのに……」


(何……?)





「貴方の事を……」



「オレは…」


 妙な懐かしさを感じて、声の聞こえる方に必死に手を伸ばす。暗闇に包まれたまま、何かが追いかけて来るような恐怖心が湧き上がる。

 進んでいるのか止まっているのか分からない。
 無我夢中でもがいていると、アクアマリンのブレスレットが不意に光を放った。ブレスレットから抜け出した空色の光は、まるで導くかのように何処かへと向かって行く。

 助けを求めるように、その光に手を伸ばした。





──不思議な夢……運命はそこから始まる──
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ