時夢の狭間・長編
□プロローグ
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「あれ……ここに、こんな道あったかな?」
いつもと同じ帰り道。緑色の街灯に照らされた脇道を見つけた。明らかにお化けでも出そうな、しだれ柳と石畳の小道。
まるで何かに誘われるかのように、その小道に足を踏み入れた。
†
わずか2人程しか入らない狭い店が、その道の奥にあった。古めかしい駄菓子屋のような、木でできた素朴な店。それでいて懐かしさも感じる。
棚には菓子ではなく、いろいろな宝石やアクセサリー、鉱物の原石などが所狭しと並べられている。
目に付く所に人の姿は無く、店員も見当たらない。どこかに出て行っているのだろうか。
目に映る宝石たちは、どれも美しい輝きを放っている。どこかに照明があって照らしているのかと思ったが、それらしいものは天井を仰いでも見当たらなかった。
数ある宝石の中で目についたのは、ひときわ美しい輝きを放つ、アクアマリンのブレスレットだった。
日の光を受けて輝いている海を思わせる、空色の宝石。
(これ、いいなぁ……)
理由は分からない。でも、どうしてもそれが欲しくて値段を確認する。
(高っ!)
持ち合わせで足りるのか不安になり、財布を確認する。どう見てもカードが使えるような店には見えない。
……どうにか買えるだけの持ち合わせはあった。
「それにするのかぇ?」
背後から聞こえた声に、心臓が飛び出しそうになった。
振り向くと、巫女さんの服を着た小さなおばあさんがちょこんと座っている。
買わない、という選択肢は、頭の中から消えていた。
滅多にそんな買い方はしないのに。値段は少し高かったそのブレスレットを──
衝動買いしてしまった。
とても気に入ったから、寝る時にまで身につけて……。
†
「サキ……レは…………のが……だったのに……」
(何……?)
「貴方の事を……」
「オレは…」
妙な懐かしさを感じて、声の聞こえる方に必死に手を伸ばす。暗闇に包まれたまま、何かが追いかけて来るような恐怖心が湧き上がる。
進んでいるのか止まっているのか分からない。
無我夢中でもがいていると、アクアマリンのブレスレットが不意に光を放った。ブレスレットから抜け出した空色の光は、まるで導くかのように何処かへと向かって行く。
助けを求めるように、その光に手を伸ばした。
──不思議な夢……運命はそこから始まる──