時夢の狭間・長編
□蔵馬夢・6
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「サキ……」
言葉は届くはずも無く宙を掻き消えて行く。
暗い闇の中に伸ばした手はサキの体に触れる事すら叶わず、急に赤く染まった視界と共にぱたり、と地面へと落ちた。
「……気が付いたかい?」
幻海は蔵馬の伸ばした手が、畳の上に落ちるのを軽く受け止めながら言った。
障子から射し込む光はやわらかさを増し、赤い光を宿し始めている。
もうそろそろ夕方位の時分だろうか。
「すまなかったな。これほど強く記憶が封じられているとは思わなかったのでな」
一時間程で目を覚ますと思っていた幻海は蔵馬に対して軽く謝罪する。
「いえ……色々大切な事を思い出しましたから。それより、サキは?」
蔵馬は体を起こしながら、隣の布団で眠っているサキに目を向ける。
「心配ない。そろそろ目を覚ますだろう」
薬湯をいれてこよう、と言って幻海は席を外した。
「サキ……」
「……ん」
蔵馬がサキの名を呼ぶと、わずかにサキが反応する。
蔵馬はサキの体を軽く抱き起こすと、頬に手を添えてもう一度サキの名を呼んだ。
「サキ……」
もう二度と会えないのだと思っていた。
サキが居なくなってしまうのなら、オレも――
きっと無意識にそう思っていた。
また居なくなってしまう様な不安に襲われて……サキの体をきつく、抱き締める。
「……蔵、馬?」
わずかな薔薇の香とともに目を覚ましたサキの視界に入ってきた物は無く、蔵馬の胸の中に閉じ込められていた。
「サキ……」
「…ッ////」
耳元でささやかれた自分の名に、一気に耳まで赤くなってしまう。
サキの体を腕の中から解放すると、真剣な眼差しで蔵馬は言った。