『恋樹』


□07・たこ焼きパーティー
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「『お正月だよ!まるごと水着食いだおれ選手権』?」


校内に貼られたポスターに目を向けると、そんな事が書いてあった。


食いだおれ?


まるごと水着って・・・なんだろう?






どんな大会なのか気になって・・・




すごく気になって・・・





放課後の部室にて、
近くにいた謙也君に聞いてみた。



「『お正月だよ!まるごと水着食いだおれ選手権』っていうんは、
餅の早食い大会ちゅー話や!」
「へぇ・・・、そうなんだ」


餅の早食いなんて珍しい・・・



お正月だからお餅なのかなぁ?


食いだおれってつくから大食い大会で、
色々な料理がでてみたいなのを想像してたんだけど・・・




「それで『まるごと水着』っていうのは?」
「別に・・・関係ないで」
「関係ないのに・・・何でタイトルにつけるの?」
「ただの『食いだおれ選手権』やったら、なんか地味やろ?」
「そうかな・・・?充分だと思うけど・・・」
「俺も如月先輩の言うとおり、充分だと思いますわ。
謙也さんアホなんちゃいます?」
「無駄の多いタイトルやな・・・」
「ちょ!タイトル考えたんは俺やないからなっ!!
文句言わんといてくれへんか?!」






謙也君・・・このままだと、また拗ねちゃいだな・・・





ここは話題を変えてあげよう・・・。





「早食いって言ったら、謙也君の得意分野だよね?」
「せやで!浪速のスピードスターは足だけやないちゅー話や」
「そのスピードスターとかいうネーミング、まじウザいっすわ。
スピードとスター取って、浪速にした方がええんとちゃいます?」
「なっ、めっちゃカッコいいちゅうねん!
四天宝寺の天才ちゅうネーミングのほうが直した方がええんとちゃうか?!」








あぁ・・・話題変えたの失敗・・・





謙也君と財前君の・・・兄弟ゲンカが始まってしまった。









「財前、謙也、ケンカやめや!」





そう白石君が言っても効き目なし。





「あの2人・・・どうしようか?」
「ん〜・・・10コケシ溜まったことやし、
餅やないけど、食いだおれ選手権の練習と部員の懇親会兼ねてたこ焼きパーティーでもしよか?」
「たこ焼きパーティー??」
「ん。いつもなら懇親会ちゅうと素麺なんやけど、
さすがに今の時期は辛いやろ?」
「うん・・・冷たいもんね」
「それに如月さん、たこ焼き作れへんやろ?」
「うん・・・」
「大阪に住んでるんやったら、たこ焼きくらい作れるようにならんとな。
せやから・・今から練習しようか?」
「いいの?」
「ええで」
「本当に何にも分からないよ??」
「1から、ちゃんと教えたる」




そういう白石君はすごい優しくて・・・


すごい信頼を感じる。



「じゃあ・・・よろしくお願いします」
「なら、準備しようか?」
「うん」










・・・というわけで、財前君と謙也君を仲直りさせるためと、
食いだおれ選手権の練習と、
たこ焼き作りの練習を兼ねて、懇親会が始まった。







でも・・・やっぱり大阪だから、





普通のたこ焼きパーティーで済むわけがなくて・・・






「白石君・・・その・・・たこ焼きパーティーなんだよね?」
「せやで?」
「タコじゃないものが具の中に混ざってるような気が・・・」




そう。



目の前にある具はタコだけじゃなくて・・・


キムチとか・・チーズとか・・グミとか・・プリンとかが並んでる。




「そ・こ・が、四天宝寺流のたこ焼きパーティーなんよ!
まぁ夕歌ちゃんには刺激が強すぎると思うけど・・・」
「題してヤミたこ焼きやな」
「まぁ・・・ヤミ鍋のたこ焼きバージョンちゅう話ですわ」





駄目だ・・・ついていける気がしない・・・。




「この組み合わせ、ええんとちゃう?
キムチとチョコって何か未知やん」
「謙也さん、それ普通に不味いと思いますわ・・・」
「そういう財前もたこ焼きにまで、ぜんざい入れるなっ!」
「皆・・・普通にタコ入れようよ・・・」


普通にタコを入れてるのは私と白石君と師範くらい。


財前君は甘いものを入れてるし、
謙也君はさっきから未知な組み合わせばかりしてる・・・


小春ちゃんと一氏君は・・さっきから2人の世界状態になってる。


小石川君は・・・あれ・・・いない;;




「出来たたこ焼き・・・誰から食おうか?」
「まずは皆で一斉に食べたらええんとちゃいます?」
「よっしゃ!じゃあ皆好きなん取って」


たこ焼き機の上には・・・

何が入ってるか分からないたこ焼き達が並んでる。

たぶん少し赤くなってるのはキムチだよね??


爆弾は当てないように気をつけようっ!




「俺・・・これにしますわ」
「これにするわ」
「アタシはコ・レ!」
「じゃあ小春の隣のヤツにするで!」
「ワシは・・・これやな」
「俺は・・・これにしよ」
「私は・・・これかな??」



皆、一個ずつ爪楊枝で取っていく。





怪しくないのを選んだつもりだけど・・・


どうか爆弾じゃありませんようにっっ!





「ほな・・・いくでぇ・・・」



「「「いっせーのーせっっ!!」」」



掛け声で一斉にたこ焼きを口の中に入れる。










よかった・・・タコとチーズだ。










・・・ホッとした瞬間、私の向かい側にいた一氏君が倒れた。





「ユウくんっっ?!!どないしたん!!」
「・・・・っ、グ、グミとキムチがっ・・・、マズっっ!」
「ユウく〜〜んっっ!!」



あぁ・・・一氏君の意識が!



「あっ、タコや。謙也さんは?」
「・・・プリンとチョコでめっちゃ甘い・・・」
「俺は・・・具なしや」




他の人には被害はないみたい・・・。



でも・・・残ってるたこ焼きはまだまだある。



いつ誰が・・・一氏君みたいになってもおかしくないよね・・・??





「でもただ食べるだけじゃ、おもろくないなぁ・・・」

と謙也君が言い出す。


えっ?まだ何か付け足す気なの??



それだけはやめてっ!



・・・と思っていたら財前君と目があった。






財前君は何か考えて、閃いた顔して・・・
意地悪な笑みを浮かべて私を呼んだ。







何か・・・嫌な予感。。






「如月先輩、爪楊枝持って」
「う、うん」
「そのままタコ焼き刺して」
「刺したよ?」
「それ・・・俺に食べさして下さい」
「え・・・ええっっ!!」




食べさせるってつまり・・・
小春ちゃんと一氏君がよくやってる『あーん』っていうのだよね??




「は、恥ずかしいよっ」
「出来ないんやったら・・・そこにある先輩の失敗作の真っ黒なたこ焼きを食べさせてあげますけど」
「それは・・・嫌・・・かな」






私は爪楊枝を力強く握り締めて・・・財前君の口元に近づけた。






「ざ、財前君・・・口あけて?」
「ん・・・」






わざとらしく目を瞑って・・・口を開いて、財前君がたこ焼きを食べた。



財前君が目を瞑った時に・・・あまりに綺麗で少し見とれてしまった自分が恥ずかしい。





「中身・・・なんだった?」
「・・・ぜんざい」



よかった・・・財前君の好物で。

これでキムチとグミの組み合わせだったりしたら・・・たぶん私、生きてない。。






「私も食べよう」




そう思って爪楊枝にたこ焼きを刺したら、
包帯のしてある左手が・・私の手を掴んで、
私の手を上手く操って自分の口元に近づけて・・・




まるで私が食べさせたかのように白石君がたこ焼きを食べた。




「し、白石君っ」
「あっ、これチーズや!めっちゃ上手い」
「あ、あの・・・」
「あっ、堪忍な。如月さんのたこ焼き食べてしもうた」
「そ、そういうわけじゃなくて・・・」





どうして・・・あんなコトしたの?





でもそう聞く前に・・・





白石君は爪楊枝でたこ焼きを取って、私の口元へ近づけた。




「えっ・・・白石君??」
「口開けて・・・『あーん』してみ?」
「はっ、恥ずかしいっ」

するほうも恥ずかしいけど・・・される方はもっと恥ずかしいよ・・・!!

「できへんなら・・・」

白石君が意地悪な笑みになる。

「し、します!」



・・・とっさに意地悪な笑みから逃げるためにそう返事してしまった。



「ほな・・・あーん」
「う、うん・・・」



白石君が優しくたこ焼きを口の中に入れてくれる。



「どやった?上手い?」
「うん・・・苺とチョコでスイーツみたいで美味しい・・・」
「ん。よかった」



そう言って笑う白石君はカッコよかった・・。
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