『恋樹』
□01・1本の樹
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大阪駅に着くと私は表札に『如月』と書かれた伯父さんの家を目指して歩く。
(どうしよう・・・道が分からなくなったちゃった)
歩き始めて15分。
早くも道に迷ってしまった。
自分が方向音痴だったってこと・・・すっかり忘れていた。
しかも私は伯父さんの電話番号が書いてある紙を家に置いてきっちゃったみたいで、電話をかけて迎えに来てもらうことも出来ず・・・頼れるのは右手に握り締めた地図しかない。
やっぱりあの時・・・迎えに着て下さいって頼んでおくんだった。
変な意地張って『大丈夫です』って言うんじゃなかったって今になって後悔する。
仕方なく・・・手探り次第に歩いていると、時刻はもう6時過ぎ。
冬だから辺りは真っ暗。
空には星が輝いている。
「夏だったら6時なんてまだ明るいのに・・・」
そんなことを呟くと、少し遠いところに月の光に照らされて輝く1本の樹があることに気づいた。
周りは住宅地で・・その樹は忘れられたかのようにポツンと立っていて、なんだか寂しい気持ちになる。
そういえば私がすごい小さい頃・・・お父さんが話してくれたっけ?
『願い事を叶えてくれる樹があるんだよ』って。
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『お父さんが住んでいたところにはな、願い事が叶う樹があるんだ』
『ねがいごとがかなうの?ながれぼしみたいに?』
『うん。お月様の光で照らされていて綺麗に輝く樹があってね・・樹の枝に願い事を書いた紙を結んでおくと次の日、青いリボンが結んであるんだ』
『あおい・・・リボン』
『青空みたいな色でね、そのリボンにメッセージが書いてあるんだ』
『メッセージ?だれがかいたの?』
『願い事を叶えてくれる妖精さんかな?』
『おとーさんの・・・ねがいごとかなえてくれた?ようせいさん』
『うん、叶えてくれたよ。かけがえのない宝物をくれた』
そういって・・お母さんと私を優しい瞳で見つめてくれた。
もしかしてお父さんが言ってたのってこの樹のことなのかな・・・?
でも願い事を書かれた紙も・・・青いリボンもない。
───・・・人から忘れられちゃったんだ・・・。
私は鞄をあけてメモ帳とボールペンを取り出す。
『お母さんが長生きしますように』
そう書いて、少しでも高い枝にとつま先立ちをして結んだ。
私は樹から少し離れて、結ばれた紙を見つめる。
お父さんの話を信じてるってわけじゃないけど・・・ドキドキする。
・・・明日になっても空色のリボンは結ばれていないかもしれない。
でも・・・もしかしたらなんて期待もして。
私は鞄を持って、月と星と街明かりに照らされた道を勢い良く走りぬけた。
私が去った後、
『大丈夫。きっと長生きするで』
そう書かれた空色のリボンが樹に結ばれたことに気づかずに。
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