『恋樹』


□10・ひとりぼっち
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風邪も治って3日ぶりに学校に登校した。

四天宝寺中に通い始めて・・・今日でもう1週間経ったのかと思うと早くて驚いてしまう。



でも1週間経っても、転校してきた日とあまり変わらない。


校舎の中で道に迷うし、テニス部の大きい扉を一人で開けて入ることも出来ないし、マネージャーの仕事にも慣れない。
それに廊下や食堂にいると、まわりの生徒の視線をすごく感じる。

それは・・・たぶん私の着ている制服が四天宝寺のものではないから。

前に通ってた・・・東京の学校の制服。
私はずっと変わる事なく・・・その制服で過ごしていくと思う。



四天宝寺の制服を・・・作ってないから。



お母さんが・・・いなくなる、その日が来たら私は東京に帰るつもりでいる。


いつかは・・・大阪・・テニス部の皆と別れなきゃいけない。
そう考えると胸がギュッと締め付けられた。



「如月先輩、おはようございます」


歩いていると財前君に会った。
なんか・・・不機嫌そうな顔してる・・・。
低血圧なのかな?

「財前君、おはよう」
「如月先輩・・・風邪もう大丈夫ですか?」
「うん!皆からの差し入れもあって、だいぶ良くなったよ」
「・・・ふーん」

財前君に疑われた目で見られる。


なんか間違ったこと言ったかな?

まだ熱があって顔が赤いとか?



財前君の口から出た言葉は予想してたものより遥かに違った。

「・・・白石部長がお見舞いにきたから、嬉しくて良くなったかと思ってましたわ。・・・関係ないみたいっすね」
「えっ!!その・・・」

財前君って本当に鋭い;;

皆の差し入れも、すごく元気をもらったのは確か。

でも・・・1番元気をくれたのは白石君。

白石君がお見舞いにきてくれたから・・なんて恥ずかしくて言えなかったから、言わなかったのに。


財前君には分かってしまったらしい。


「顔に出てた・・・?」
「バレバレですわ、先輩。隠し事とか嘘つくの下手なんちゃいます?」
「隠し事もそんなにしないし、嘘もつきませんっ!財前君が鋭いだけだよ!」
「ほんなら試しに聞きますわ。・・・白石部長の事、どう思っとるんですか?」
「えっ?!質問おかしいと思う・・・」
「ええから、素直に答えてください」


白石君の事、どう思ってるか・・・?


「白石君は・・・優しくて頼りになって、カッコよくて・・・人として完璧過ぎる・・・大切な友達だと思ってる。でも・・・」
「・・・?」
「財前君は、友達にドキドキしたりしないよね?」
「まぁ・・・」
「私ね、白石君に時々ドキッとさせられる。それでも友達っていうのかな・・・?」


そういうと財前君が溜息をついた。


「・・・如月先輩って、自分の気持ちに気づかないフリしてるか嘘ついてるか、鈍感なのか分からないっすわ」



鈍感・・・?



自分の気持ちに?



財前君の言った言葉の意味が、知らない事が多くて子供な私はよく分からなかった。





教室に行くと謙也君が手を振ってきた。

「夕歌、風邪治ったんか?」
「うん、おかげ様で」
「ほんなら良かったわぁ。マネージャーがおらんから、練習の時とか皆元気なかったんやで」
「そうなの?」
「せやで。。特に白石とか心配し過ぎ・・・」
「何か言うたか・・・謙也君?」

気がつけば、謙也君の後ろに左腕の包帯を少し解いて・・・意地悪な笑みを浮かべる白石君が立っていた。
謙也君の顔から血の気が引いていく。

「何も言ってへんで?なっ、夕歌?」

助けて・・・という目で謙也君が見てきた。

「・・・うん、謙也君は何にも言ってないよ?イグアナの話をしてただけ」

私も必死に謙也君をフォローする。
それを聞いてか白石君は、解いてた包帯をクルクルと縛り始めた。

「・・・ならええわ。朝から毒手使うのも嫌やしな。・・・せや!如月さん今日用事あったりするん?」
「ううん。ないけど・・・」
「買出しあるんやけど、付き合ってくれへん?」
「えっ、今日は部活お休みだよね?」
「なんやけど、部で毎年恒例のクリスマスパーティーがあってなぁ・・・色々と買出しせんとアカンのや、オサムちゃん命令で」

クリスマスパーティーという言葉が聞えて、一気にテンションが上がる。

「クリスマスパーティーやるの?!」
「せやで。・・・なんか如月さん、メッチャ嬉しそうやな」
「だってクリスマスだよ?!クリスマスツリーとかケーキとかプレゼントとか楽しいこと盛りだくさんのイベントだよ?」
「もしかしてサンタクロースとか信じとる?」
「えっ?ううん!それはさすがにもう・・・!でも小さい頃の癖で・・・枕元に大きな靴下を掛けて置いてたりする・・・」
「可愛ええなぁ〜」
「・・・内心、笑ってたりしない?」
「してへんよ?ホンマに可愛えって思ったで?・・ほんなら如月さんを楽しませるためにも、頑張らなアカンな」





・・・というわけで放課後、いつものメンバーで買出しに出かけた。

駅ビルの中にある生活品を集めたお店で、謙也君がさっきからたこ焼き機を見つめてる。
ほしそうに見つめる謙也君の姿が、まるで3歳の子供に見える。

「やっぱ、新しいたこ焼き機買ったほうがええんちゃう?白石」
「アカンで謙也。予算オーバーや」
「謙也さん、アホっすわ。頭使こうてから言って下さい」
「うるさいで!財前!!」
「ふふっ」
「夕歌も笑うんやないでっ!!」


外でも、まるでお笑いコントをしているかのような元気さに驚いてしまう。

いつものテニスをやる部活とは違う雰囲気。

ここでの白石君は部長というよりも・・・お母さんみたいに見える。
謙也君と財前君は仲が悪いように見えて、実は仲がいい兄弟みたい。

「夕歌ちゃ〜ん!!」

そんな事を考えていると、後ろから小春ちゃんに呼ばれた。
小春ちゃんのいるところに行ってみると、仮装グッズが置いてある。
白石君の話によれば、今度のクリスマスパーティーで一氏君と新ネタを披露するらしいから・・・そのための道具を探してるのかな?

「夕歌ちゃん、どっちがええと思う?」

小春ちゃんが聞いてきたものは・・・東京育ちの私から見ると、どれもキラキラで・・・なんともコメントしにくい。
散々悩んで、指をさして答える。

「・・・こっちがいいと思うなぁ」
「選ぶときに恥らうトコも可愛ええわぁ〜!」
「小春ぅ〜、そんな奴が選んだのより、こっちにいいのあるで?!」
「黙れやっ、一氏!!」

・・・今、一瞬小春ちゃんが男に戻ったような・・・?

しかも小春ちゃんの一言で、一氏君の瞳に涙が見えた気がしたけど・・・気のせい?

小春ちゃんは、そんな一氏君に目もくれず、私が選んだものを持ってレジへと行ってしまった。

「待ってや!小春ぅ〜〜!」

・・・今までお互い好きなのかって思ってたけど・・・一氏君の片思いなのかな・・・?もしかして・・・。


それからしばらくして。

オサムちゃんに頼まれたものを白石君がレジに並んで買ってくる間、謙也君と財前君に連れられて、近くのCDショップにいた。

「夕歌ってどんな曲聴くん?」
「う〜ん・・・東京にいた時は、周りの皆に遅れないように流行の曲を聴いてたけど、今はそんなに聴かないかな・・・音楽プレーヤーも持ってないし」
「今時、音楽プレーヤー持ってないとか、先輩ダサいっすわ・・・」
「えっ?!ダメ??」
「・・・別にダメやないですけど」
「あっ!新しいCDが出とる!!財前、クリスマスプレゼントとして買ってくれへん?」
「謙也さんにプレゼントとか・・・嫌ですわ。ぜんざい、100個買ってくれたら考えてもええですよ」
「・・・もうええ!お年玉で買うわ」
「ふふっ」
「どうしたんや?夕歌」
「謙也君と財前君って本当に兄弟みたいだなぁって思って」
「その冗談やめて下さい・・・謙也さんみたいな馬鹿と兄弟なんて・・・考えただけで死にたくなりますわ」
「なっ!お、俺もお前と兄弟なんて願い下げやっ!!」
「そう言い争うところが兄弟だよ」
「兄弟、言うなっ!!」

2人息ぴったりツッコミを入れる。
さすが兄弟みたいなだけあるな・・・って私は思ったけど、2人は嫌だったらしく、お互い睨みあっていた。
ふと遠くを見ると白石君が買い物袋を手に持っていたんだけど・・・女の子たちに囲まれてる。

どうしたんだろう?

道でも聞かれてるのかな?
その割には困った顔してるような・・・。

そんな疑問に答えるかのように、謙也君が呟いた。

「あぁ、また白石逆ナンされとる」
「逆ナンっ?!」
「白石は結構されとるで?」

あっさり言う謙也君。
財前君もまたか、というような目で見てる。

逆ナンされてる人って初めて見た。
白石君ってどこにいても・・カッコいいって思われるんだな・・・やっぱり。

「謙也さん、助けたほうがええんやないですか?白石部長、逆ナンしてくる女性ニガテですし」
「もう少ししてからでええんちゃう?白石の困った顔、おもろいで?」
「だ、だめだよ!困ってるんだから助けてあげなきゃっ!!」

私は謙也君に向かってそう言って、白石君のところへ走っていった。


白石君は私に気づいたみたいで、困っていた顔がパアっと明るくなる。



「如月さん、捜したで?」


そう言われたかと思ったら、突然グイって腕を引っ張られて引き寄せられたから、ビックリしてしまった。

なっ、何っ?!
白石君、何考えてるの??

逆ナンをしていた女の子たちはポカーンとした目で私を見てくる。

白石君は笑顔。

私の顔は真っ赤。


「・・・ってことで、彼女おるんで。ほな!」

と言うと私の手を引っ張って、思いっきり猛ダッシュしていった。



白石君・・・今なんて言った・・・??


か、彼女って言ったよね・・・?



思わず顔を真っ赤にしてしまって・・・走ってる最中、そのことしか考えられなくなる。


どれくらい走ったんだろう?


気がつけば、駅ビルのあたりから離れた広場のような場所にいた。


私は汗を額から出し、座りこんでしまう。

普段テニス部で運動をしている白石君と、体育くらいでしか運動しない私では体力とか・・・持久力とか差がありすぎる。


「・・・・し、白石君・・・早いよ・・・、追いついてけない・・・」
「えーと・・・堪忍な」

そういうと私の目線に合わせるように、白石君も座る。

「如月さん、顔真っ赤やで?病み上がりなのに・・・無理させてしもうたな・・・熱、出てへん?」
「・・・大丈夫。・・・顔が真っ赤なのは・・・ほ、ほら・・さっき白石君が私のこと彼女とか言ったからだよ!・・・いくら逆ナンから逃れるためっていっても・・・友達って言えば良いのに」
「あかんなぁ如月さん、そこは上手く乗っからんと」
「で、でも・・・」


冗談だとしても、そんなこと恥ずかしくて言えない。


白石君の彼女だなんて・・・私は友達だよ?



でも、なんでドキドキするの?





『・・・如月先輩って、自分の気持ちに気づかないフリしてるか嘘ついてるか、鈍感なのか分からないっすわ』




そう考えていたら、朝、財前君に言われたことを思い出す。


もし無意識に私が自分の感情に気づかないフリをしているとしたら・・・。


白石君の事を友達だと思うこの感情は嘘なのかな・・・・?



なら、私は白石君の事をどう思ってるんだろう?

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