short story


□雨音
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さっきまでの青く広がる・・澄んだ空はどこへ消えたんやろか?





廊下の窓の外を見れば雨。





雨の雫が地面を叩いては音を奏でる。


そんな雨の音と絡み合うかのように音楽室からピアノの音が聞えた。







俺の脚は自然と音楽室の方へ動き出しとって




音楽室の扉を開けた先・・・自分がおった。











君が奏でる音に




奏でる音に絡み合う雨音に




俺は心惹かれたんや




















────【雨音】






思わず溜息が出るような暑さの続く夏。





夏ちゅうのに今日は中間登校日で、30度を越す外を歩いて学校に向かわなければならなかった。


ラフな格好しとっても暑いちゅうのに、制服を着て、ネクタイ着けて、おまけに髪が首元にかかるくらい長いとさらに暑い。





『そんなに暑い暑い言うなら髪切れ』




・・・って宍戸や跡部に言われたけど、



『髪切るなんて嫌や。今の自分の髪型気に入っとるから』



・・・っていうて断った。




今思えば、レギュラーになる代わりにと自慢の髪を切った宍戸や、約束を守って髪を切った跡部に言う言葉やなかったなぁ・・・なんて後悔しとるけど。










空を見上げれば飛行機雲がまっすぐと綺麗にのびる・・・澄んだ青空。



暑く輝く太陽が地面を暑く照りつけた。










「晴れるのはいいけどよ、ここまで暑いと嫌になるぜ。雨とか降ってくんねぇーかな?」

「雨降ったら湿度が高くなって余計暑くなるだけやで、宍戸」

「けどよ、いくらなんでも暑過ぎだろ・・こんな日に部活とか信じられねぇーよ。確実に死ぬ」

「大丈夫です、宍戸さんっ!宍戸さんが熱中症とかで倒れた時は俺が必ず看病しますから!」

「ちょ、長太郎?!」

「・・・なんで鳳が高等部におんねん・・・」

「その・・日吉が跡部さんに用事があるっていうからついて来たんです。

日吉が跡部さんと話してる間、俺は宍戸さんにでも合いに行こうかなって思って・・来ちゃいました☆」

「・・・やって宍戸。ホンマ鳳に愛されとるな」

「う、うるせーっ!!!長太郎、いい加減自立しろっっ !!!」

「宍戸さ〜ん(泣)」

「暑いから抱きついてくるなっ、馬鹿!!」

「鳳!さっさと中等部に帰るぞ」

「いやだ、日吉!俺は宍戸さんと一緒にいる!!」

「駄々こねるな!それでもお前は副部長か!」

「長太郎いい加減離れろ!暑い!」






暑さで人間頭がおかしくなる言うけど、まさに鳳のことやな・・なんて思いながら苦笑いする。

鳳と宍戸・・・日吉の様子を見とったら、跡部が教室のドアから入ってきた。






「なんだ、またアイツらやってるのか」

「せやで。あんなやり取りされると余計暑苦しく感じるわ。

来年鳳が高等部入ったら、さらに暑苦しくなりそうやな」

「・・・高等部入ってから・・・か」

「ん?どないしたんや跡部」

「いや、高等部入ってからお前のヴァイオリンの音聞いてねぇーなと思ってな。ヴァイオリンやめたのか?」

「ん〜・・・やめたわけやないんやけど・・・高校生活が忙しくて弾く時間も減って・・自然消滅したって感じやな。

もともとヴァイオリニスト目指してたわけやないし・・・このままやったらもう二度とヴァイオリン触ることないかもしれへん」

「・・・そうか」







いい音色奏でるのにもったいねぇ・・・そう跡部が呟くのが聞えた。


たぶん・・今の俺には跡部がいう『いい音色』は奏でられないと思う。




なんでヴァイオリンを弾くのか・・・理由がわからなくなってしもうたから。






『頂点』を目指してるわけでもない



趣味ちゅうわけでもない







理由がなくなって・・・俺は自然とヴァイオリンから手を離してた。




ふと空を見上げれば相変わらず綺麗な青空が広がっとった。


遠くから雨が近づいてきてるなんて気づかずに・・ただ空を見つめた。
















─────
───────
─────────



「良かったなぁ、宍戸。願い通り雨降ってきたで」



放課後、空を見上げれば青空は消えて黒い雲が広がって雨が降り出した。

雨はしだいに激しくなって、遠くでは雷も鳴ってるのが聞えた。




「あ〜雨降っても全然涼しくねぇ・・・」

「だから言うたやん。湿度が高くなるから暑くなるだけやで〜って」

「そんなの知らねぇーよ。雨降ってきたけど・・今日部活あんのか?」

「雷雨みたいやからすぐ止むやろ。部活はあると思うで。まぁ・・止むまで待機だと思うけどな」

「なら部室行っとくか」

「あぁ宍戸、悪いんやけど跡部に寄るとこがあるから部活遅れるかもしれへんって言っといてくれるか?」

「どこ行くんだよ、忍足」

「図書室。本返しにいかなアカンのや。ほな頼むで」




そう宍戸に告げて、俺は図書室のほうへと歩きだした。






図書室の扉を開ければ、そこは雨の音だけが静かに響く。


借りてた本を返して、図書室の中を一通り見回しても窓の外では激しく雨が降っとった。

部活はまだ始まらんとは思うけど・・遅れたら跡部に色々言われそうやし・・と思うて図書室から出る。









部室へと脚を進ませていたら




どこからかピアノの旋律が聞えた。







(中等部の音楽室からやろうか・・?監督の音色とは違うから誰か生徒が弾いてるんか?)



氷帝の音楽室は放課後自由解放になっとって良く生徒達が利用しとる。

俺も良く・・こんな雨の日はヴァイオリン弾きに行ったなぁなんて思い出す。




(──それにしても上手いなぁ・・・)





聞えてくるピアノの音色はとても綺麗で、鳳とは違った感じの上手さやった。



しかも良く聞けば・・弾いてる曲は










──・・・・ベートーヴェンの『月光』










俺が良く・・・ヴァイオリンで弾いた曲。



気がつけば綺麗な音色に誘われて俺の脚は部室から音楽室へと目的地を変えて進んでいた。
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