short story
□夏を知らせにくるのは君だった
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『精市!風鈴持ってきたよ』
時の流れを感じさせない病室。
君は俺に夏の始まりを知らせに来た。
風に揺れる・・・鮮やかな風鈴。
君と聞いた・・風鈴の音は今も忘れない。
今年もまた・・・俺に夏の始まりを知らせに来るのは君だろうか?
───【夏を知らせにくるのは君だった】
梅雨が明けて・・・もう5日。
太陽が地面を照り付けて、とても暑いと感じるこの頃。
今日は学校も部活も休みだし、天気も良いから花の世話でもやろうかと予定をたてていたのだけど・・・──
突然来客がやってきた。
「何しに来たんだい・・・?ブン太に仁王、赤也・・・それに柳生と雪菜」
家のドアを開けると珍しい組み合わせのメンバーがいて驚く。
一体どうしたのだろう・・・?
「幸村部長!もう大変なんっすよ!」
「勉強会しようって図書館行ったら、エアコン壊れてやんの。あんな蒸し暑いところで勉強なんて出来ないぜ」
「もう俺、汗だくッス」
「そんで幸村、お前さんの家なら図書館から近いし、広いし、涼しいと思ってのう。お邪魔したわけじゃ」
「すみません・・・幸村君、彼らを阻止することが出来ませんでした」
「ごめんなさい・・・連行されました」
それを聞いて、思わず俺はため息をついた。
まったく・・・部活以外でも世話のかかる部員達だ。
去年は俺が皆に苦労をかけるほうだったのに、今年は皆に苦労かけられてばかりだよ。
・・・でも去年とは違うんだと思うと・・・俺は嬉しくなった。
去年の今頃は・・入院生活だったから。
今年は皆と毎日を過ごせている。
「幸村君、今すぐ連れて帰りますので;;」
そう言う柳生を『せっかくここまで来たんだから』と言って引きとめ、皆を家に上げる。
自分の予定なんて・・・どうでもいい。
今はただ・・・去年、一緒にいられなかった時間を埋め合せていきたい。
そう思った。
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「やっぱり幸村部長の家って大きいっすね」
「外国に来た気分を感じさせる家じゃのう・・・さすが幸村の家ぜよ」
いつ俺の家に来ても驚いた顔をする仁王と赤也を見て、思わず笑ってしまう。
「フフ、そうかな・・・?真田の家の方が俺にはすごいと思うけど」
「真田君の家は確か純和風の造りでしたね」
「掛け軸とか生け花とか飾ってあってすごいよね」
「俺・・・真田ん家、固苦しくて嫌いだぜ」
「俺もッス。副部長の家は何回行っても慣れないというか・・・」
「ダメだなぁ〜、ブンちゃんも赤也も。
和風だからこそ心が落ち着かせられるんだよ。
ああいう静かな空間だからこそ精神も鍛え・・・「わあぁぁぁ!!水無月先輩っ!真田副部長みたいなこと言わないで下さいよ!」
「・・・今一瞬、水無月に真田の魂がのりうつったかと思ったぜよ」
「仁王君・・まだ真田君は死んでいませんよ;;」
「比呂士・・・誰も真田が死んだなんて言ってない;;」
「ほら、みんな話はやめて勉強しようか?俺は飲み物とお菓子でも持ってくるから」
「精市、私手伝うよ?」
「ありがとう。でも俺1人で大丈夫だから雪菜は勉強してて」
そう言って、俺は部屋を出てリビングへと向かう。
ただ家の中を歩いただけなのに・・・体が暑いと感じて、少し体も汗ばむ。
テレビを見れば、『今日も真夏日だ』と天気予報士が言っていた。
こんなに暑くて・・・世間ではもう『夏』だと言っているのに・・・
どうして俺は『夏』がきたと感じないのだろう?
『夏』と言い切るには何かが足りないような気がしてならないんだ。
何が足りないのかは思い出せない。
そもそも『夏』ってどこから始まるんだ?
梅雨が明けたら?
7月になったら?
暑くなったら?
蝉が鳴き始めたら?
夏休みが始まったら?
俺の考える『夏』の始まりは一体どこからなんだろうか・・・?
そんなことを考えていたら、いつの間にか10分もの時が過ぎていて俺は慌てて階段を上がった。
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