short story
□夏の太陽以上に恋は熱く
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あんな・・・『浪速のスピードスターや!』ってよお言っとるけど、
実はな・・・・ノロいことがあんねん。
それはな・・・・
手・・・繋ぐタイミング
抱きしめるタイミング
『好き』って言うまでの時間
キスをしようと決心を固めるまでの時間
それと・・・
一緒に居りたい気持ちを抑えて
『ほな、また明日な』って
言い出すまでの時間
全部全部・・・遅くなってまう。
こんなんやったら『スピードスター』失格や!
『好き』ちゅう気持ちがデカイほど・・・俺はどんどんノロくなる。
それほど俺はお前に・・・熱くなってるっちゅう話や!
夏の太陽以上に・・・な?
───【夏の太陽以上に恋は熱く】
8月、夏休み。
空は青空がめっちゃ綺麗に広がって・・太陽が地面を照りつける中、
大型連休ちゅうのを利用して俺は彼女と遊園地に来とる。
この遊園地・・・めっちゃ人気でチケットはなかなか買えへんらしいし、
おまけにチケットは値段高いから絶対来れへん思とったんやけど・・・この前、侑士が
『このチケット・・友達から貰ったんやけどな、俺、遊園地ってガラやないし・・興味あらへんから、ジェットコースター好きの謙也にあげよう思うてなぁ。
ちょうど2枚あるし・・・彼女とでも行ってきや』
・・・って言うて俺にチケットをくれた。
いつも変態とか、邪魔やとか言うとるけど・・そん時だけは従兄弟ながら、よぉやった思うたわ。
『あぁ、でも謙也には彼女なんておらへんか』・・・って言うてきた時は頭殴ってやったけど。
まぁ・・・そんな事が色々あって、俺は学校で雪菜に『行かへん?』って誘って・・・今に至るわけや。
「謙也さん、なにか乗りたいものありますか?」
俺より1歳幼い彼女は遊園地のパンフレットを広げながら、『謙也さん』って呼んでくる。
『謙也さん』って呼び方・・・財前と同じなんやけど・・呼ぶ人がちゃうってだけで、こんなにも胸への響き方が変わるんやな思うた。
財前が『謙也さん』って呼ぶと・・・トゲトゲしとる感じで
雪菜が『謙也さん』って呼ぶと・・・胸の奥でなんかが溶けて広がるちゅう・・・そんな感じ。
・・・・恋ってホンマ不思議やな。
そう思っとる間にも隣の雪菜は真剣な顔でパンフレットと睨めっこしとる。
「さっきから私の乗りたいものばっかりに付き合わせちゃって・・謙也さん、我慢してますよね?」
「してへん、してへん!」
「そう言いながら謙也さん・・・さっきからジェットコースターに目がいってますよね?」
「うっ・・・・・」
「というわけで謙也さん!次はジェットコースターに乗りませんか?!」
「やけど・・雪菜、ジェットコースター苦手言うてたやん。無理せんでも・・・」
「無理なんかしてませんっ!・・・ただ・・謙也さんが喜ぶ顔が見たいなぁ・・・って」
「え・・・・」
「ほら!早く、早く!行きましょう!」
「ちょ、雪菜!!」
雪菜に手を引っ張られて、ジェットコースター乗り場へと足が動き始める。
俺は心ん中で『あぁ・・・またやうてもうた』って思うた。
──最近・・俺は彼女にリードされてばかりいる。
リードされとる・・・というよりは、彼氏の見せ場を彼女に持っていかれとるちゅうか・・・
タイミングを逃してまう。
『好きや』言うタイミングとか、
抱きしめるタイミングとか、
・・・いざなると・・わからへんようになって・・・
今日のデートだってそや。
夏休みちゅうだけあって・・・家族連れも多いんやけど、カップルも多くて・・・カップルは手を繋いで・・楽しそうに笑ってた。
俺やって・・・愛しい彼女がいるっちゅう話で
その彼女は可愛らしい笑顔しとって
その可愛ええ笑顔を俺に向けとって
・・・・手・・繋ぎたい思うのに・・・
『ここやっ!』・・・ちゅうタイミングで
手がいう事きかへんようになって・・・
『手、繋いでもええか?』って口が動かへんようになって・・・
気がついたら
『謙也さん・・・そ、その・・・手・・繋いでもいいですか・・?』
そう・・・彼女に先に言われてもうた。
いつもなら・・・スピード命な俺やもん・・・
白石や侑士みたいに完璧なわけでも、恋愛経験豊富なわけでもない。
せやけど・・タイミング逃すとか、攻めるん遅いとか・・そんなヘマせえへん。
けど・・・雪菜のこととなると・・これやもんな。
カッコええ彼氏ちゅうのは・・・やっぱりリードしてくれる男性やろ?
・・・リードもろくに出来へん俺なんかが彼氏で雪菜はええんやろうか?
飽きれてへんやろうか?
このままやったら・・『浪速のスピードスター』も失格やけど、『雪菜の彼氏』も失格やな。
隣で俺に笑顔むけてる雪菜を見て・・俺も笑い返したけど、
もし・・・この笑顔が・・飽きれとるのを悟らせへんための・・偽りの笑顔やったら・・俺、どうすればええんやろ?
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