short story
□線香花火
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大空に輝く大輪の花火もいいけどよ、
自分の手の中で儚く輝く花火も・・・いいもんだな。
この・・・花火が燃え尽きて
火花が下に落ちるまで
・・俺はお前を好きでいても良いか・・・?
────【線香花火】
「見ろよ、亮!なんか部室にこんなのあったぜっ!」
「は?なんで部室にそんなモンあるんだよ・・・氷帝に似合わねぇーつうか・・・」
「俺、やりたE〜〜」
「状態もええし、今夜あたりやったらええんとちゃうん?」
部室に戻るとなにやら忍足達が騒いでいた。
氷帝に似合わねぇとか今夜やるとか言ってるが・・・一体なんのことだ?
「おっ、跡部!ちょーど良いところに!花火やろーぜ!!」
「花火・・・?今からじゃ用意出来ねーだろ」
「違う違う、跡部が考えてるようなでっけー花火じゃなくてコレだよ」
そう言って向日が俺の前に出してきたのはカラフルな棒が一杯入った袋。
袋には『花火セット』と書いてある。
「これが・・・花火なのか?この棒が」
「跡部・・・ロケット花火とか煙花火とか知らねーの?」
「なんだよ・・・そのロケット花火とかやらは」
「まさか跡部がここまで世間知らずやったとはな・・・」
「無理もないですよ。跡部さんですから」
「てわけで、跡部の庶民体験も兼ねて花火やろーぜ!」
「はっ、誰がそんな地味な花火をやるか。俺様に相応しいのは夜空に輝く大輪の花火なんだよ」
「まぁ・・そうかも知れねーけど、自分の手の中で輝く花火もいいと思うぜ、なあ長太郎」
「そうですね・・別の味わいがあっていいと思いますよ」
「・・・ウス」
「ったく、そんなこと言ってねぇでさっさと帰るぞ。やりたいならお前らだけで公園にでも行ってやれ」
花火とか・・・どうでもいい。
・・・俺は早く帰りたくて仕方ない。
『ごめんね・・・好きな人がいるの。だからね、婚約の話は解消して欲しい』
つい先日、俺は幼馴染で・・・将来共にすることを約束していた奴にそう言われた。
もともと親同士で勝手に決めた婚約だ。
お互い・・好きなんて気持ちは薄かったかも知れねぇ。
でも・・・俺は少なくとも雪菜のことが好きだった。
だから・・・雪菜からそう言われた時、無理やりにでも捕まえて・・・離さないでいたかった。
けど・・・・──
『自分の生きる道は自分で決めたいの』
そう・・・俺の瞳を真っ直ぐに見つめて言うから・・・
親に頼んで婚約を解消させてもらった。
雪菜は泣きながら『ゴメンね・・・』としか言わなくて
俺はその涙を・・・優しく拭う資格なんて持ってねぇから・・『泣くなよ』としか言うことが出来なくて・・・
──心が痛んだ。
そんな過去を考えていると忍足が俺の肩を掴んで耳元に軽く囁く。
「跡部・・・悲しいのは分かっとるけど、いつまでも過去に縛られてたらアカンで?・・・気分転換したらどや?」
忍足は・・・俺が雪菜との婚約を破棄したことを知っている。
もちろん・・・他の奴らも。何気なく雰囲気で。
『花火やろーぜ!』
それはきっと俺を励ますための・・・精一杯の行動なんだろうな。
俺が過去に縛られてるせいで
宍戸や・・・向日・・・忍足達に迷惑をかけてる。
そんなの・・・納得いかねぇ・・・。
過去を忘れるためにも、部員達に迷惑をかけないためにも──
俺は忍足に向かって『わかった』と頷いた。
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