『恋樹』


□20・訪問者
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冬休みが始まってから時が過ぎるのは早くて・・・










今日は12月31日。









大晦日。





今年・・・最後の日。














部屋の時計を見ると11時を過ぎていて・・・あと少しで新年になる。





今年は・・・一人で過ごす最後の日かな・・・




正確には叔父さんと葉月さんがいるんだけど、
お父さんとお母さんと過ごさない大晦日は・・初めてかもしれない。


いつもなら年越しそばを食べながら、笑って来年は良い年になりますよーにっ!



・・・って願ってる頃なのに・・・



今年は違うんだって思ったら・・涙が出てきそうになった。










「こんな泣いてなんかいたら、いい年が来ないよね・・・?」









そう一人で呟いて・・・





涙を拭こうとティッシュを取ろうとしたら、携帯電話の着信音がなる。






こんな時間に誰だろう?






お父さんとかかな・・・?










そう思って取った携帯電話の液晶画面に出ていた名前は予想とは全然違って・・・




驚いて電話に出た。












「こんばんわ、如月です」














「・・・こんばんわ、如月先輩」








電話越しに聞える・・・低い声。







後輩とは思えないほど大人っぽい財前君の声。













「どうしたの財前君・・・こんな時間に。
何かあった??」
「いや・・・ただ先輩と電話越しなんですけど、
年が明けるのを・・・一緒に過ごしたくて電話したんですわ」
「私と?どうして??家族と過ごさなきゃ駄目だよ」
「家族とは毎年過ごしてるから平気っすわ。
どうして・・・って如月先輩、家族離れとるから一人で年越すんやないかって心配で・・」
「うん・・・」
「そしたら・・・やっぱり泣いとったから」
「財前君って超能力者なの?」
「はっ?」
「だって離れてるのに・・・近くにいないのに・・私の事・・よく知ってる」
「如月先輩の思考なんて、謙也さんの思考より分かりやすいですわ」
「なんか悲しい・・・その言葉。
そういえばっ!さっきね?謙也君がメールくれたの。
従兄弟が大阪に戻ってきてるって」
「あぁ・・・謙也さんの従兄弟って氷帝の・・」
「うん、侑士君。侑士君ってポーカーフェイス出来るんだよね?
私も財前君に思考読まれないように出来るようにしようかな・・・」
「あぁ・・・無理だと思いますけど。
先輩には一生無理」
「そんなに否定しなくても・・・」
「それより・・・如月先輩」










今まで普通だった財前君の声が、




急に真剣な声に変わった。

















「どうしたの?」
「謙也さん以外から・・今日メールとか電話とかきたんですか?
例えば・・・白石部長とか」











あっ・・・





そういえば・・・・












「きてない・・・」















白石君から電話もメールもきてないんだ・・・





でも年を越す前に電話やメールをする人は少ないと思う。


財前君や謙也君くらい。


普通は年が明けてから『明けましておめでとう』ってメールを送る人が多数。



白石君だってその多数の人の中かもしれないのに・・・







さびしい・・・







新年を迎える前に・・・






聞きたい












白石君の声が













聞きたい

















「先輩、今めっちゃ白石部長のこと・・・考えとりますよね?」
「えっ・・・う、ううん・・・」
「やっぱ如月先輩って部長のことしか眼にないんですか?」
「そういうわけじゃないの」








財前君のことも見えてるよ?






電話くれて嬉しかった。















でも・・・心のどこかで望んでる。


















私が聞きたいのは・・・・



























「夕歌ちゃん、電話やで」








下の階から葉月さんの声が聞えた。












電話って・・・もしかして・・・











「財前君、ちょっと待ってて」










そういって携帯を耳から離して




胸をドキドキさせながら









下へと階段を降りた。









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