『恋樹』


□16・気になる人
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「白石君、渡したいものって・・?」
「ん?まだ内緒やな」
「もう教えてくれても・・・」
「ダメや」



・・・さっきから続いてる、この会話。























時は少し前に戻って。



クリスマスパーティー後。







カラオケから出て、その場で解散になった。


「ほな、また明日!
25日はまだクリスマスやけど練習あるからな?よぉ覚えといてなっ!」
「おうっ!ほんなら、またな」
「・・・また明日」
「うん。みんな、またね!」
「明日は小春と出かけよう思っとったのに・・・鬼や!鬼っ!」
「まぁまぁユウくんっ!仕方ないわぁ〜運動部なんやし!それに正月があるやない!!」
「せやなっ!正月は一緒にお参り行こうな、小春!!」
「うんっ!ユウくん!!」




皆、自分の家に向かって別々の道を歩いていく。



また1人、また1人・・・って「また明日」って笑顔で手を振って別れる。






気がつけば、白石君と2人だけだった。





白石君の家に近いわけじゃないけど、同じ方向なんだよね・・・。
思えばストリートテニスをした時も、たこ焼きを皆で食べに行った時も一緒に帰ってた。




白石君の家…梅田にあるんだっけ?



四天宝寺から遠いなぁ・・っていつも思う。






「白石君、四天宝寺中に通ってるのってテニスが強かったから・・・?」
「いきなり・・・どないしたん?」
「白石君の家、梅田でしょ?
自転車だったら近いかもしれないけど・・それでも遠いなぁ・・って思って。
何か理由があるんじゃないかな?って思って」




もう白石君に会って1ヶ月がもうすぐ経つっていうのに、こんなこと聞いたら悪かったかな・・・?




でも前よりは・・・少しは白石君のことは知ってると思う。




完璧なテニスをやること。

皆に信頼される部長さん。

毒草に詳しい。

シャンプーの香りがする子が好み。

逆ナンは苦手。

好きな食べ物はチーズリゾット。




綺麗な瞳を輝かせて・・優しい時もあれば、少し意地悪な時もあって・・・





すごく今まで助けられた。





でも私の知る白石君は・・・




きっと白石君にとっては、ほんの1部のことにしか過ぎないんだと思う。





「ごめん、今の質問は忘れて?」




さっきの質問は会って1ヶ月経つというのに


私が白石君のこと・・あまり知らないって思われたら・・悲しいから



やっぱり聞くのをやめようと思った。





白石君はしばらく黙っていて・・・


少し微笑んだような顔をすると私の方を向いた。





「なぁ・・・如月さん」
「どうしたの?」
「渡したいモンがあるんやけど・・・」





渡したいもの・・・?




「なに?部活動の報告書とか??」
「そんな固苦しいモノやないって」
「えっ、他に白石君が渡すような物・・・あったけ?」
「あるやん」
「えっ?」
「自分、俺からクリスマスプレゼント・・・貰ってないやろ?」





クリスマスプレゼント・・・?






え?






えっ!!?









「さっきの制服じゃないの?!プレゼント・・」
「それは皆からのプレゼントやろ?」
「う、うん」
「やのうて、俺からのプレゼント」
「でも私、白石君にプレゼントを頂くほど偉くないし・・・逆に私がプレゼントしたい」
「如月さんからは毎日もらっとるで?プレゼント」
「え?・・・何もあげてないよ?私・・・」



そう言ったら白石君はニコニコ私を見て笑って返事してくれない。



本当に・・・たまに意地悪。




そういえば話がずれてたけど・・・




渡したいものって何だろう・・・?






「そういえば・・・渡したいものって何?」
「ん?なんやろうな?」



そういって白石君は教えてくれない。






仕方ない・・・




こうなったら意地でも聞き出すしかない!






「渡したいものって?」
「分からないわ」
「教えて!」
「知らん」
「ねぇっ!渡したいものって?!」
「知らないって言うとるやん」



何回聞いても白石君は笑顔でかわす。





私へのプレゼントなのに・・・




教えてくれないなんて・・・!!










「白石君、渡したいものって・・・?」
「ん?まだ内緒やな」
「もう教えてくれても・・」
「ダメや」




そう言った時・・・白石君の表情が真剣なものに変わった。




「財前の事・・・どお思っとるん?・・」
「えっ・・?」




財前君のこと?





「毒舌で・・鋭くて・・少し可愛らしいなって思う・・大切な仲間・・・かな」
「ホンマに仲間って思っとる?」
「う、うん。財前君は仲間だよ?」
「財前を・・・男として見たことはあるんか?」
「どうして・・・そんなこと聞くの?どうしたの・・・?白石君」




今日の白石君・・・何処かおかしいよ・・・




「っ、アカン・・・めっちゃ心乱れとるわ・・・」




心が乱される・・・・?




財前君と何かあったのかな・・・?





「あのね?白石君」
「どないしたん・・・?」
「財前君と何かあったの・・・?」
「・・・・・」



何も言ってこない。

やっぱり何かあったんだ・・・。



そういえば謙也君も言ってたっけ?


白石君と財前君・・・何かあったんじゃないか・・・って。




「あの・・・白石君」
「ん?」
「財前君はね…さっきも言ったけど、毒舌でね、思ってた事言われるくらい鋭い子で・・少し意地悪だな・・・って思うときがあるの」
「・・・ん」
「でもね?時々・・・ほんの時々ね・・優しくて、今日も落ち込んでたときに素直に言えたんだから・・・皆、仲間なんだから信用しろって言われたの」
「・・・」
「でね私・・・その通りだなぁ・・・って思った。
仲間なんだから皆を信用しなきゃ・・って」
「・・・ん」
「財前君のね・・・私に送る優しさは仲間っていう優しさなの。
でもね?・・・白石君が私に送る優しさは違うの」
「・・・えっ?」
「こ、これは私の勝手な解釈なんだけどね?
白石君に今まで・・・すごい助けられた。
大阪に来て・・不安だった私を助けてくれたのは・・樹のリボンのメッセージもあるけど、白石君でもある。
それに風邪のときもお見舞いに来てくれて嬉しかった。
1ヶ月の間にたくさんの優しさをもらったの」
「・・・・」
「白石君の優しさはね・・・財前君の優しさとは違って・・・何か・・・よく・・わからないけど、すごい温まるの。
すごい笑顔になれるの」



毎日・・・白石君の言葉がすごい心の中で響いてて・・・


思い出すたび・・頑張ろうって思う。



1ヶ月の間に私はたくさんの勇気とか・・優しさをもらった。


でも1ヶ月間・・・私は白石君に何かお返しした?





白石君はさっき、毎日プレゼントしてもらってるって言ってたけど・・・




自分で思いつくのは・・お弁当だけしかない。



でもお弁当もお返しって言えないよ・・・。







「ねぇ・・・白石君、何がほしい?」
「え?」
「クリスマスプレゼント・・・何がほしい?」
「ええって。毎日もらっとるって言うたやん」
「私・・・何もあげてないよ?1ヶ月間、毎日プレゼントをもらってたのは私の方だよ」





そういうと白石君が笑って私の前髪を指で撫でる。






その行動にドキッとしてしまう私。








時が止まる・・・。













「やったら・・・プレゼント頼んでええ?」
「・・・うん」
「如月さんのこと・・・今よりもっと知りたい。
俺のことも・・・もっと知ってもらいたい。
今・・・この時だけ、俺のことしか考えないでほしい」
「・・・・っ!!」
「ダメ?」
「・・・今日はクリスマスだから・・・それに私も・・知りたい」
「何を知りたいん?」
「そ、それは・・・」
「素直に言ったらええやん」
「し、白石君の事が・・知りたい・・・です・・・」
「よぉ言えました」




そういって私の頭を撫でる。





恥ずかしいけど・・・



すごい・・・優しい温もり・・・。










それから白石君が自分について話してくれた。






家族の事。



テニスを始めた事。



2年生から部長を任せられて・・・先輩達からの視線が怖かった事。



自分でいいのかと思った事。



今も不安でいること。




それに私は精一杯答えた。



1ヶ月・・白石君がくれた優しさを

私も白石君にあげたくて。






「会って・・1ヶ月しか経ってない・・・私が言うのもおかしいけど・・・白石君は良いトコをたくさん持ってる。
優しいだけじゃなくて・・・厳しいのも・・面白いのも・・意地悪なのも・・すべて良いの、白石君らしいの・・・。
だから・・・そんな白石君だから部長を任せられたんだよ・・・?」
「・・・泣かせること言うなぁ・・・如月さんは」
「ごめんなさい・・・」
「なんで謝るん?・・・そう言われるの初めてやったから・・・めっちゃ嬉しかったで?」
「本当・・・?」
「ご褒美やるわ」



そういって渡されたのはプレゼント。



「やっと渡してくれた・・・。もうすっかり忘れるトコだったよ・・・」
「開けてみ?」
「・・・うん!」


リボンを解いて・・・そっと袋の中の物を引っ張る。


出てきたのは・・・・





















四天宝寺テニス部のジャージとリストバンド。

















「リストバンドは買ったモンなんやけど・・・ジャージは俺が1年の頃、着とったやつ・・・。
制服頼んでないってことは、ジャージも頼んでないんやないかな・・・?って思って」
「うん。頼んでなかった」
「制服もやけど・・・お古で堪忍な」
「ううん!すごく・・・嬉しいよ?
テニス部のジャージ・・・憧れだったの。
でも私はいつか部を去る人だから、着ることは許されないことだろうなって思ってた」
「ええんやで?・・・何処へ行っても俺らの仲間っちゅうことは変わらへん」
「・・・うん。・・・今、着てみていいかな?」





白石君が笑って頷く。



私はブレザーを脱いで・・・ジャージに袖を通して着てみた。






「わぁ・・・サイズ合ってる!!」




1年生の頃の白石君のジャージは
2年生の私の体にピッタリのサイズ。





「1年前の白石君は私と同じくらいだね」





1年前の白石君はどんな子だったんだろう?



私と同じくらいの・・・白石君は。







まだまだ知らないこともあるけど、多くの白石君を見る事ができた気がした。

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