『恋樹』
□14・誰にだってある
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〜白石side〜
自分から好きになった事がなかった。
いつも相手が告白してきて・・なんとなく付き合ってみる。
相手を好きになろうちゅう努力はしとるんやけど…なかなか好きになれなくて。
ただ会いたいて思ってるんやろうな…って思った時に会いに行って。
デートして。
キスして。
でも努力しとるうちに・・・相手から離れていったわ。
「白石君の瞳には私が映ってない。・・自分が自分じゃなくなるような・・・そんな恋愛した事ないでしょ?」
そう最後に誰もが俺に言って。
確かにそうやった。
付き合ってても・・・とても自分らしくいられた。
・・・それって恋してないからや。
謙也は俺の事、恋愛経験豊富でええな・・・そう言っとったけど・・・
俺は全然経験あらへん。
本当の恋を知らないわ。
・・・いや・・・知らんかったが正解やな。
12月。
突然、目の前に姿を現した転校生は今までの女子とは雰囲気というか・・・なんか違った。
最初は気になるってだけやったのに・・・
傍でいつも見ていたいだけの存在やったはずなのに・・・
知るたびにドンドン気になって、意外な一面を見るたびに、1人泣いてるの見るたびに守りたいって思って・・・
風邪だって謙也から聞かされた時は、いつも通り・・・メールを送って、お見舞いには行かなくて、部活にでる予定やったはずなんやけど・・・
気になって・・・会いたくて・・・仕方ない。
いつのまにか走って、家の前に来とった。
ドアを開けて出てきた時の如月さんの顔を見て・・・
部屋で話したときの笑顔見て・・・
どこか心の奥で・・・温かい感情が広がった。
その時・・・初めて気づいたんや。
アカン・・・いつもの自分やない。
全然・・・完璧でもない。
自分が自分じゃいられなくなる。
心が揺らいで・・・強く抱きしめたくなる。
会いに行きたくなる。
笑顔が見たくなる。
あぁ・・・これが本当の恋なんやなって。
如月さんの事が、ホンマ・・好きなんやって気づいた。
でも今日・・・如月さんを好きなのは俺だけやない・・・って気づいてしもうた。
如月さんと謙也、財前が恋バナしとるのを聞かんようにと・・・歌っとったんやけど・・
財前の言葉が耳に入ってきた。
『その人は人一倍頑張り屋で、優しくて・・・でも人の見とらんトコで悩んで、苦しんで、いつも一人で抱え込んで泣いとる。せやけど・・・いつの間にか笑顔で・・その笑顔が可愛ええ・・・って思う。守りたい思う』
その人の名前は言っとらんけど・・・
財前の守りたいっていう人は如月さんやって・・気づいた。
財前の言った言葉は・・・俺が如月さんについて思っとることと・・・一緒やったから。
財前も好きなんや・・・。
「白石っ!生きとるか?!おーい!」
謙也の声で自分が呆然としてたことに気づいた。
アカン・・・めっちゃ心乱されとる。
突然の・・・ライバルの出現に。
「・・あ、あぁ・・考え事してたわ・・・。ちょっと飲み物とってくる」
心を落ち着かせてこよう思って席を立ったら、財前も行くって言ってきよった。
心乱す本人が付いて来るとは・・・。
まぁ話したいこともあるし・・・ええか。
そう思って扉を開けたら謙也に止められた。
「ちょっ、二人して・・・恋バナから逃げる気か!白石、ちょっとは話てもええんちゃう?」
「やから、俺の好みはシャンプーの香りがする子やって言うてるやん」
そう言ったら、謙也が
「それは知っとるから、別の事言ってや!」
・・・ていう眼でめっちゃ睨んできた。
いつもなら無視するんやけど・・・
カラオケでテンションが上がってる事もあり、
また近くに財前がいるから宣戦布告になるんちゃうかな・・・って思い、
小さく・・・扉が閉まる瞬間、呟いた。
「如月さんが・・・好きや」
「それ・・・宣戦布告のつもりですか?部長」
小さな俺の呟きは財前には聞えたみたいやった。
部屋から何の騒ぎも起きないから・・・謙也と銀さん・・・如月さんには聞えてへんやろ?
まぁ・・・宣戦布告のつもりやったから、財前だけに聞えるように小さな声で言ったからな。
それにカラオケで告白はしたくないし・・・
如月さんに聞えてなくて・・・ホンマ良かったわ。
「・・・さっきの言葉が宣戦布告に聞えたちゅうことは財前が気になるって言うた人、やっぱ如月さんなんか?」
「さすが部長、鋭いっすわ」
「どっかの鈍感なお二人さんと違うてな。・・まさか財前が恋とは驚きやったけど」
「その事は俺自身、驚いてますわ」
財前自身・・・驚いてる?
どういうキッカケで好きになったんや?
「・・・最初は謙也さんと仲良くしとる先輩やなくらいしか思ってなかったですわ。
慣れない仕事にアタフタしとるし、ちょっとの事でよく泣く。
でもめっちゃ頑張り屋で・・・ホンマは家族の事とか大変そうなのに・・自分で解決しようとするし・・・笑顔で頑張ろうとするし・・・。
そんなトコロが守りたい思った。
これが恋なんやって確信したのは、さっき学校で家庭科室前で・・・泣いとった先輩を見た時ですわ」
その先、財前は黙っとったけど
その先なにを言いたいんかは分かるわ。
俺やったら・・・
泣いてる如月さん見たら・・・
その涙をぬぐって
優しく抱きしめてる。
たぶん財前やって同じや。
そう思うと胸が痛んだ。
「・・・なら俺からも宣戦布告させてもらいますわ」
そう言って財前は俺を真っ直ぐ見て宣戦布告してきた。
「先輩は・・・部長のものでもないし、俺のものでもない。でもいつかは・・・貰いますわ、部長の座も・・・如月先輩も」