『恋樹』
□13・こんな私でもいいの?
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今・・・目の前にはマイクが。
「よっしゃ〜!!歌ったモン勝ちちゅう話や!」
「先輩・・・はしゃぎ過ぎですわ」
てなわけで。。
クリスマスパーティーの二次会、ということでレギュラーメンバーとカラオケに来ています。
皆に行こう!・・・って誘われて来てみたけど、私はカラオケは中2にもなって初体験。
それに流行の曲も分からないし・・・歌えるものないかも・・・;;
頑張って歌えそうなの探さないと!!
「一発目、誰いく?」
「如月先輩の歌、聞きたいっすわ」
財前君がイキナリ私を指名してきて、ビクッとなる。
まだ歌える曲、見つけてないよ!
「な、何も歌えないから先に皆歌って!!」
「けど聞きたいわぁ〜夕歌ちゃんの歌声〜〜」
「で、でも本当に何も歌えなくてピンチなんだよっ!!」
「・・・ピンチ?」
私がピンチって言ったら皆の動きが止まった。
あれ・・・?私・・・変な事言った??
「よっしゃ〜〜1発目は皆で歌うで!!」
「ほな行くで〜」
小春ちゃんがタンバリン、一氏君がマラカスを後ろで叩きながら、白石君と謙也君がマイクを持って歌いだした。
「♪ピンチ!ピンチ!ピンチヒッターはおらへん!」
なるほど!
・・・私がピンチって言ったから、その曲が思いついたのか・・・。
ちょっと皆の動きが綺麗に止まってて驚いたけど・・・一安心。
「白石君と謙也君って歌上手いね」
「あら〜ん、アタシ達も負けてないわよ?」
「いくで!小春!!」
「ユウくん!」
今度は小春ちゃんと一氏君がマイクを持って歌い出す。
「♪へい!どないしたんや?シケたツラしとるやないか」
確かに小春ちゃんも一氏君も上手いなぁ〜。
歌詞は何か・・・すごい変というか・・・大阪らしいって思うものだけど。。
そういえば財前君と銀さんは歌わないのかな?
「財前君と銀さんは歌わないの?」
「持ち歌、少ないんですわ」
銀さんもコクリと頷く。
「でもあることはあるんだよね?」
「まぁ・・・一曲だけ。師範はソロやけど・・・俺は謙也さんとの曲ですわ」
また銀さんが頷く。
「部長が持ち歌、多いんっすわ。いくら人気やからって・・・あり過ぎ・・」
「そんなに多いんだ・・・」
白石君の方を見ると、なんかすごい・・・中2ですか?っていう声で
「♪無駄のないテニス。んー、あー、絶頂」
・・・って歌ってる。
すごい白石君らしい歌・・・だな・・・。
無駄、絶頂、聖書・・3つ全部入ってるよ。
なんとなく立って踊ってるし・・・それに手に持ってるバラ、どこから持ってきたの?
色々・・・ツッコミたくなるけど、黙ってた。
白石君が歌い終わると謙也君が「貸しや!」って言ってマイクを奪い取る。
「ほな!次!財前歌うで〜」
「・・・歌ったら持ち歌なくなるんですけど」
「ええやん!歌ったモン勝ちや!」
謙也君が強引にマイクを押し付けてきて、、財前君が溜息をついてる間に曲が流れ出す。
「♪あきらめないさ 心に翼 つけてゆこう
限界を越えてゆく勇気の・・・」
「うわ!アイドルみたい!」
謙也君と財前君の声が上手い具合に絡み合っていて・・・すごく上手い。
やっぱりいいコンビだと思うんだけど・・・。
そういうと二人に怒られそう。
「でも一曲しかないなんて悲しいな・・・。もっとあってもいいのに・・・こんなに上手いんだから」
「せやな。でも事情ちゅうもんがあるんやろうな」
「うぅ〜・・・でも!もったいないよ!もし二人がアイドルだったら、絶対CD買うと思う!」
「・・・俺のは買ってくれへんの?」
「えっ?!もちろん買うよ?!白石君も上手いし・・・面白い曲もあったけど、心に響く曲もあったから・・・。ほら!え〜と・・・答えなど求めない、今進み続けることがきっと、明日への一番の近道なんだと信じる・・・だっけ?」
「あぁ・・・『go on』な。俺もそれ好きなんや。なんか勇気がでる・・・ちゅうか・・・一番自分らしく歌える歌やな・・・みたいな」
「うん・・・すごい白石君らしかった」
「せやけど今の気持ち、如月さんの前で歌うんやったら『Song for you』やな」
「なんで私の前?」
「ん?・・・なんでやろうな?」
そういって白石君が意地悪な顔で笑う。
本当に何を考えてるか分からないなぁ・・・。
「夕歌、何歌うか決まったか?」
「・・・そ、それが・・・うん・・・決まらない」
「はぁ〜遅すぎやで!1日12時間なんやから、もっと大事に使ったほうがええで?」
「えっ?12時間?謙也君、1日は24時間だよ」
「えっ!12時間ちゃうの?」
その時、『スピードスター』という歌を白石君のかわりに歌っていた財前君の声がよく聞えた。
「♪もしかしたら1日、12時間と思ってへんか?」
「・・・まさに謙也君の事だね、この歌・・・」
「今やから言うけど・・・なんで俺が歌ったんやろ?」
「謙也さんが歌ったら自慢しか言わないからちゃいますか?スピード命的な」
「あぁ〜なるほどな!さすが天才財前君やな。さえとるわ」
「ちょっ!そこっ!勝手に決め付けんといてっ!!」
そういって3人が言い争いを始める。
今、一生懸命・・・銀さんが歌ってるのに小春ちゃん達も飲み物を取りにいっちゃっていないし・・・聞いてるの私だけだよ・・・。
「銀さん・・・上手かったよ?私、ちゃんと聞いてたからね?」
「おおきに・・・如月はん」
表情はあまり出さないけど・・・
すごい銀さんが落ち込んでるように見えるのですが・・・気のせいかな?
結局・・・歌えるものも見つからず、ドリンクを飲んでいたら謙也君が話しかけてきた。
「夕歌、歌わないんやったら話せえへん?」
「うん、いいよ?何の話?」
「それはもちろん!恋バナやっ!」
ゴホ、ゴホっ!!
思わず飲んでいたお茶を噴出しそうになった。
「な、な、えっ?!こ、恋バナって・・恋愛話?」
「それが以外に何があるんや!」
「・・・何も・・ないです・・・ね」
「やったら決まり!一杯話すでぇ〜!財前もやるんやで?先輩命令やっ!」
「何で俺も・・・」
「ええやん!白石も話しせん?」
「あぁ・・・俺はええわ。歌っとる」
「何や?つれへんなぁ〜・・・」
「謙也さん・・・如月先輩もですけど鈍感ですわ・・・。部長の前で恋バナやなんて・・・」
「えっ?ダメなん?」
「まぁ・・・ええっすわ。早よ始めましょ」
「・・・そうやな!いきなりやけど夕歌って彼氏おったことあるん?」
「ううん。一度もない」
「・・・まぁ聞かなくても予想つきますわ」
「ほんなら初恋とかは?」
「う〜ん・・・ない・・・かな・・・」
「なんや!おもろないなぁ〜」
「そういう謙也君はあるの?」
「ない」
そこって・・・あるって言うとこじゃないかなって思うんだけど・・・。
「侑士が『足綺麗な子が居るで』ってうるさくて・・・初恋する暇なんかなかったわ。あっ、夕歌、侑士には会わんほうがええで?足綺麗やから・・・アイツの好きなタイプにメッチャ当てはまるわ」
「そこまで綺麗じゃないよ?小さいけど・・古傷だってあるし・・・」
「まぁ・・とにかく会わんほうがええ!アイツしつこいから・・・変態やし」
そう謙也君が言ったとたん、誰かの携帯が鳴った。
「謙也さんの携帯やないですか?」
「あぁ・・・そうみたいやわ。まったく誰や?こんな時に・・・って侑士っっ!!!」
どうやら噂の侑士君から電話みたい。
噂をすれば・・・って本当にあるんだから怖いな。
謙也君が電話をするために外へ行ってしまって・・・自然と財前君と2人で恋バナをする・・みたいな雰囲気になってしまった。
「財前君は恋人いないの?」
「いないですわ。いたらクリスマス、こんな過ごし方しません」
「そ、そうだよね・・・。じゃあ初恋の相手とかいるの?もしくは・・・気になる人とか」
「・・・初恋はないですけど、気になる人ならいますわ」
「えっ・・・?」
あの毒舌の財前君が恋?
気になる人?えっ・・・誰だろう?
「その人は人一倍頑張り屋で、優しくて・・・でも人の見とらんトコで悩んで、苦しんで、いつも一人で抱え込んで泣いとる。せやけど・・・いつの間にか笑顔で・・その笑顔が可愛ええ・・・って思う。守りたい思う」
そういう時の財前君の顔は・・・すごくその人のことが好きなんだな・・・って感じさせるもので・・・
でもどこか瞳の奥に勝負の時に見せるような・・・強い闘志があって・・・
初めて見る財前君だった。
「その人のこと・・・すごい好きなんだね」
「まだ気になる人・・・であって好きなんかは分からないですけど」
「そうなの?気になるって感じじゃなかったよ?・・・すごいその人のこと・・・見守ってるんだなぁって感じる顔だった。それにライバルもいるのかな?闘志も見えたよ?」
「・・・そういうトコは鋭いんやな・・・」
「えっ?」
なんて言ったの?
そう聞こうとしたら謙也君が勢いよく入ってきて、そっちに気を取られてしまった。
「謙也さん、お帰りなさい。・・・遅かったですね」
「ホンマ、侑士の奴・・俺にスローライフさせる気かっ!!電話長くて焦ったわ。メールの方が早くてええのに・・・・って、さっきから気になってんやけど」
「え?」
謙也君がそういって指をさす先にいたのは、白石君で・・・
なんだろう?
驚いたような・・・でもさっきの財前君みたいに瞳の奥に闘志があるような・・・そんな表情をしたまま・・・どこかを見つめて止まってる。
「白石っ!生きとるか?!おーい!」
「・・・あ、あぁ・・考え事してたわ・・・。ちょっと飲み物とってくる」
「俺も行きますわ」
そういって財前君と白石君が席を立つ。
「ちょっ、二人して・・・恋バナから逃げる気か!白石、ちょっとは話てもええんちゃう?」
「やから、俺の好みはシャンプーの香りがする子やって言うてるやん」
そう笑って白石君は言ってたけど・・・
シャンプーの香りがする子が好みって言った後、扉が閉まりきる直前・・・微かに口が動いたのが見えた。