『恋樹』


□12・ホントのコト
1ページ/1ページ


部室がいつも以上に賑わってる。


・・・今日はクリスマス・イブという事で部活はお休みでパーティーだから。


私もお手伝いしながら、クリスマスパーティーに参加させてもらって楽しい事は楽しいんだけど・・・

買出しで白石君や謙也君達の前で『いつかは東京に戻る』って言ってから、少し気まずい。

私が『東京に戻る』って言った後、暗い雰囲気が流れちゃって・・・誰も一言も喋らないまま帰宅した。


・・・それからというもの皆とあんまり話してない。
「おはよう」とか「またね」くらいしか会話してないような気がする。




私が避けてるせいもあるけど。


でも向こうも避けてるみたいな感じもあって。




素直に言ってみたけど、東京に帰ることを黙ってたんだもんね・・・ちゃんと言ってくれた事は嬉しいだろうけど・・・問題が大き過ぎて皆動揺するに決まってる。




避けられるのも当たり前。


寂しいけど・・・仕方ないよね・・・。


こんな状況を作ってしまったのは私自身。






飲み終わったペットボトルとか、食べ終わったお皿とか片付けてたら、後ろからオサムちゃんに声をかけられた。

「如月、家庭科室から残りの飲み物持ってきてくれへん?もうすぐ家庭科室、閉めなアカンのや」
「あっ!はい、わかりました」
「確かあと2,3本だったはずやけど・・1人で持てるか?無理やったら白石でも使って・・」
「いえっ!1人で充分ですっっ」


オサムちゃんが白石君を呼びそうになったから、慌てて部室を飛び出す。



・・・もう!オサムちゃんって監督でありながら、まわりの状況が分かってない!!



今、私・・・皆と気まずい雰囲気なのに。




特に白石君なんて皆の事をよく考える部長さんだから、何か言われるかもしれない。



ううん、白石君だけじゃない。



謙也君だって財前君だって何か言ってくる。





いつかは東京に帰る私。





そんな私をどういう風な眼で皆見ているのか知るのが怖い。
どんな言葉を言ってくるのか怖い。





ペットボトルをギュッと握り占めながら、
家庭科室を出て部室に行かなくちゃ・・・
って思ってるのに、一歩も足が動かない。



・・・冬なのに額から汗も出てる・・・。




・・・息も自然と乱れてる。




体が何も言う事を聞かなくて、その場に座り込む事しかできなかった。




・・・馬鹿みたいだ。




こんなに・・・こんな気持ちになるなら、
マネージャーなんか引き受けなきゃ良かったのに。


そしたら・・・皆とだって『クラスメイト』とか・・
そんな関係で・・私が東京に戻っても何事もなかったかのように毎日が・・・
くればいいのに。



どうして?



どうしてこの世界って上手くいかないんだろう?






「如月先輩・・・泣いとるんですか?」




「・・財前・・・君・・」




顔を上げたら・・・目の前に財前君がいた。




「はぁ・・・中学生にもなって泣くとか・・ダサいっすわ」
「・・・財前君、どうしてここに来たの?」
「オサムちゃんが『如月がまだ帰ってへんから、財前見にいけ』・・って言ったんで来たんですわ。・・・白石部長が良かったですか?」
「ううん・・・欲をいえば誰にも来てほしくなかった・・・」
「その理由って・・・この前の事ですか?東京に戻るちゅう話・・」
「・・うん」
「皆の言葉とか目線とか態度とか・・・気になってるんですか?」
「・・・うん」



そう返事したら、財前君が大きく溜息をついた。


しかも呆れ顔をしたと思ったら、少し頬を赤く染めて笑いだす。



・・・えっ?なんで?・・・


「如月先輩、気にし過ぎですわ」
「だって・・・」
「先輩、もう忘れたんですか?・・・素直に言ってええですよって言ったこと」
「覚えてるよ?」
「なら・・素直に言ったんやから、気にすることないと思いますわ。・・『いつか東京に戻る』って素直に言ってくれて嬉しかった・・・それが今の俺らの気持ちなんで」
「・・・えっ?他に何とも思わないの?」
「・・・いつか帰らなアカン・・・って、
先輩がいなくなることは寂しいって部の皆が言ってましたけど・・・泣いたらアカンって。
最後まで笑顔でいようって決めたんですわ」
「でも、ここ3日間・・・謙也君も白石君も・・銀さんも小春ちゃんも一氏君も・・・あと小石川君も
みんな私のこと避けてたから、みんなに嫌われたかな・・・って」
「・・・それは別の事ですわ」
「別の事?」
「目の前の部室のドア開けたら、分かりますよ」



財前君はそう言って部室のドアを指差した。


さっきまで笑い声が聞えていたのに、
今はシーンってしてて・・・すごい静か。



「早よ入らないと、謙也さんが耐えられないんで」



なかなか入ろうとしない私に財前君が「早く開けろ」とでもいう顔で見てきたので、慌ててドアに手をかける。


謙也君が耐えられない?


一体なんだろう・・・?


まだ皆の視線や態度が・・・気になりつつも力一杯ドアを開けた。





パンっ!パンっっ!!



・・・そんな大きな音と同時に紙吹雪が私の前に飛んでくる。

これって・・・クラッカー?




「おぉ!やっと来たでっっ!!」
「主役来るの遅いわぁ〜」
「驚いた顔しとるちゅうことは、サプライズは成功やな?」


サプライズ?!


「えっ!えっ?!どういうこと??サプライズって何??」
「サプライズちゅうは・・コレの事や」


白石君が近づいてきて・・・可愛くラッピングされた大きな袋を私に渡してくれた。



「プレゼント・・・?」
「驚くのはまだ早いで?・・開けてみ?」
「う、うん」


部員の全員の視線が私に向いてて・・
色々と恥ずかしいなぁって思っていたけど、
早く開けないと皆を待たせてしまうからと思ってリボンを解いた。


大きいし・・・柔らかいから、ぬいぐるみか何かかな・・・?って予想してたんだけど



そこに入ってたのは予想とは違って・・・





「これ四天宝寺中の制服だよね・・?」



まぎれもなく四天宝寺の女子制服だった。



「それ探すの大変やったんやで?
学校にも試作品みたいなモンはもう残っとらんって言われてしもうてな、
ウチの姉貴に聞いてみたら残ってたんや」
「えっ?じゃあこの制服って白石君のお姉さんの?」
「せやで。・・・お古でスマンな」
「貰っていいの?」
「姉ちゃんには許可もらうてきたし。
それにずっとしまっておくのもアレやし・・使ってくれた方がええって言っとった」
「3日前から用意してたんですわ。
内緒にしようって言うたら、謙也さんが口がすべって言ってしまうかもしれん・・・って言い出して、
皆で避けるようにしたんですわ」
「なんや、財前!俺が悪モンみたいな言い方はっっ!」
「本当のこと、言っただけですわ」
「・・・たしかにそうかもしれんけど、3日間待つとか・・・
俺にスローライフさせようなんてするからや!!」


財前君と謙也君が言い争いを始めて・・・
皆の視線がそっちにいってる時に、小春ちゃんが近づいてきた。


「その2人は置・い・と・い・て、夕歌ちゃん制服に着替えてきなさいよ〜」
「えぇ!」
「隣の部屋、開いとるから。夕歌ちゃんの制服姿見たいわぁ〜」
「えぇ?!ちょっ・・・!」


困っている間に、小春ちゃんに強引にも隣の部屋に入れられてしまった。


しかも外から鍵を閉められて開かない。


これって着替えないと・・・開けてもらえないよね・・・?
ある意味で強制みたいな感じがするんだけど。




ドアの向こう側から聞える大きな笑い声を耳で感じながら、制服の袖に腕を通した。



人のお古って初めて。


一人っ子だから・・お古を貰う事なんてなかったし、いとこも男の子ばっかで・・・。


だからすごく緊張した。




着替え終わって、そういえばこの部屋、鏡あったなぁ・・・って思って鏡を探す。



やっぱり皆に見せる前に自分で見たい。



何か変な着方してて財前君とかにツッコまれるのも・・謙也君とか一氏君に笑われるのも嫌だし・・・。
白石君とか小春ちゃんはフォローしてくれそうだけど・・・見られるのはなぁ・・・。



そう思いながら見つけた鏡の奥に映っていた私は、いつもの私と違って見えた。

何か変な着方してるってわけじゃない。


いつもの自分と


今、鏡の前にいる自分が



とても違って見えるだけ。


制服が違うだけなのに・・・こんなにも見える世界って変わるんだ。


「夕歌ちゃん〜?着替え終わったかしらぁ?」
「あっ、うん」
「じゃあ鍵、あけるわねぇ〜」


ガチャ・・っていう音でドアの鍵が開いたのが分かった。

皆・・なんて言うかな?

すごく大きな音をたてる心臓を落ち着かせてドアノブに手をかけよう・・・とした時だった。




ガチャッ!




勢いよくドアが開いた。








「えっっ!!」
「なっっ!!如月さん?!」





部屋に入ってきたのは・・白石君。

ものすごい驚いた顔してる。


「制服・・・着替えたんや・・・」
「うん・・。着替えてること知らなかった?」
「ん。財前と謙也のコント見とったし・・・。
せやけど如月さんがおらんことに気づいて、小春に聞いたら・・・
ココの部屋におるって言うたから来たんやけど・・・」


白石君の言葉が途切れる。

あれ・・・?

どうしたんだろう?



「どうしたの?白石君」
「・・・アカン・・・」
「?」
「イキナリ過ぎて・・・何言ったらええか分からへん」
「えっ?イキナリって・・・制服姿が??」
「・・・それ以外に何があるんや?」
「・・・ありま・・・せん・・・。
・・・でも、別に素直に思った事言っていいよ?
そんなお世辞とか喜ばせようとか・・・考えなくていいから!素直に言って?」
「素直に言えないから困ってるんやないか」
「・・・えっ?」
「これはまだ秘密やからな。今は・・・これだけ伝えておくわ」


秘密って何だろう?

伝えたい事って何だろう?


そう思って顔を上げたら・・・白石君と目線があって・・・ドキッとする。



「めっちゃ・・・似合っとるで」




その言葉を聞いた瞬間、心臓がすごい跳ねたのを感じた。



「まぁ〜〜!!夕歌ちゃん、可愛いわぁ〜惚れてしまうわぁ〜〜」
「小春、浮気か!」
「如月はん、よくお似合いで」
「夕歌!よう似合っとるでぇ〜」
「・・・まぁまぁですわ」

皆が部屋の中に入ってきて、一気に賑やかになる。

皆の顔を見てたら・・・涙が出てきた。


「先輩、また泣いとるんですか・・・?」
「だって・・・皆の顔、よく見るの久々だなぁって」
「たった3日やないか」
「でも・・皆に嫌われたかな・・・って・・・もう前みたいに・・話せないのかな・・・って・・すごく・・心配・・・したんだよ・・・?」
「アホか!もっと信用せなアカンやろ!」
「まぁまぁユウくん、夕歌ちゃんは純粋な子なんやから、そう思うのも無理ないと思うわ」
「・・・やから、いつも通りに接すれば良かったモンを・・・謙也さんが」
「また俺のせいか!」
「財前の意見に・・・異存はあらへん」
「銀まで何言うとんのや!」
「アタシも光と銀さんに賛成〜」
「小春が言うなら俺も」


謙也君と他の皆が白石君をジッと見る。


白石君は笑って謙也君の前を通り過ぎて、他の皆の方へと行った。


「俺も皆の意見に賛成や」
「なんや!白石まで!!信用しとったのに!もぉ〜俺が謝ればええんやろ?!」

そういって私の前に来て、大きく頭を下げた。


「スマン!夕歌がそんな思いしとるとは思わんかった!」


謙也君の謝り方が・・・あまりにも必死で思わず笑ってしまう。


「何笑っとんのや、夕歌・・・」
「だって謙也君・・・すごく必死なんだもん」
「はぁ〜・・・人が一生懸命謝っとんのに。でも夕歌・・・笑う元気があるみたいで良かったわ」



謙也君の言葉にハッとした。



確かに笑うなんて久しぶりだったかも。

笑う元気・・残ってたんだ・・・。



「ほらほら!夕歌ちゃんが元気になったことやし・・・パーティーの続き始めましょっ!」
「せやな」
「先輩・・・もう泣かないで下さいね」
「・・・うん。気をつけるね」


皆また、隣の部屋に戻ってパーティーを始める。


今度こそ楽しめそう・・・。


顔が思わず微笑んでしまう。


新しい制服での皆との生活は今までより、もっといいものになればいいな。


そう願いながら隣の部屋に行こうとしたら、後ろから頬をプニッとされた。


「わっ!!・・・って白石君?!」
「驚かせてしもうた?」
「う、うん・・・すごい驚いた。
・・・あの・・お姉さんにお礼伝えといてもらえるかな?
・・・ありがとうございますって。大切にしますって。
本当は直接言いたいけど・・」
「なら直接言ったらええわ」
「えっ?」
「今度、俺の家来るか?」
「えっ?!」
「・・・如月さん家、お邪魔させてもらうたし・・・。部屋まで入ってしもうたからな」
「で、でも・・・」
「ガブリエルも、エクスタちゃんも見せるで?」
「・・・ガブリエル?・・・エクスタ・・・ちゃん?」
「あぁ・・・ガブリエルちゅうのは、カブトムシの名前で、エクスタは猫の名前や」
「なんか・・白石君らしいネーミングセンスだね」
「せやろ?謙也なんか自分のイグアナに名前つけとらへんのや。
愛ないやろ?」
「うん。確かに・・名前ないなんて可哀想だね。謙也君なら名前とか・・すぐ思いついてつけそうなのに」




謙也君がイグアナを飼ってる姿を想像したら、思わず笑ってしまった。



白石君のほうを見ると、私の方を見て・・・優しく微笑んでる。



「・・やっと笑ったな」
「えっ?さっきも笑ったよ??」
「あれは皆の前でやろ?・・・俺の前で笑うたんは久々や」
「・・・うん」
「3日間、ずっと泣いとる顔しか思いだせんかった・・・。如月さんの笑った顔って・・どないやったかな?・・って考えとった」


その言葉をいう白石君は・・・すごい寂しそうな目で・・・胸がギュってなった。


3日前の白石君に伝えたくなる。


私はちゃんと笑えるよ・・って。

笑った顔を一杯見せてあげたい。




「でも思い出せてよかったわ。・・如月さんは笑った顔が1番可愛ええ」





いつか聞いたその言葉。


前に言われたときは顔を赤く染めて固まってしまったけど・・・


今は照れとか恥ずかしさを抑えて・・・少し顔が赤くなりながらも・・・素直に笑った。



もう二度と忘れないように。

泣いた顔は見せないように。


そう願って。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ