『恋樹』
□11・悪夢
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謙也君と財前君に電話した後、走って喉が渇いたこともあって、白石君とベンチに座ってお茶を飲んでいた。
そんな状況が少し落ち着かない。
ドキドキしてしまう。
変に意識しちゃう。
さっき白石君が冗談ではあっても・・・私の事を『彼女』なんて他の人に言ったから。
『マネージャー』とか『友達』とか他にも言葉が一杯あったはずなのに・・・。
それを考えると顔がまた赤くなる。
白石君には見られたくないと思い、赤くなった顔を冷ますように、気持ちを落ち着かせるように残っていたお茶を一気に飲み込んだ。
みるみる頭の中が真っ白になる。
すばやく立ち、空になったペットボトルをゴミ箱に捨てた。
少し自分の頬に手をあててみると、火照っている感じはない。
だいぶ気持ちも落ち着いたし・・・よかった。
もし・・・さっきの顔で皆の所に帰ったら、財前君にまた何か言われてたと思う。
・・・財前君・・・鋭いからなぁ・・・。
そんな事を思ってるうちに白石君が荷物を持ってベンチか立った。
「ほな、帰るか。皆待っとるし」
「うん」
白石君の声を聞いても、顔を見ても、さっきみたいに変に意識しないし・・・顔も赤くならないし・・・ホッとする。
それでも・・・どこかドキドキしてるんだけど。
「荷物持つよ?」
さっきから白石君にばかり持たせてばかりだったのに気づいて、慌てて『荷物持たせて』という合図のつもりで白石君の前に手をだす。
やっぱりマネージャーなんだから仕事はちゃんとしないと。
でも私の手に置かれたのは荷物じゃなくて。
白石君の手だった。
「・・・・?!」
「1人でいるように見られるとナンパされるから・・・ちょっと手繋がせてな?」
さっきのことを思い出しまた顔が赤くなる。
しかも手を繋がれた状態。
歩いていると通り過ぎる人はみんな白石君を見ていて、私にも少し鋭いような・・・冷たいような視線があることに気づく。
この状況・・・辛い。
顔を必死に俯かせた。
だんだん駅ビルに近づくにつれて人も多くなり、見る人も多くなり、手を繋がれたままで恥ずかしさは増すばかり。
前から四天宝寺の制服を着た人達が歩いてくるのが見えて、私は思わず白石君の手をグイッと引っ張って背中にピッタリくっついて隠れた。
白石君が驚いてに振り向く。
「どないしたん?」
「・・・前から四天宝寺の人達が歩いてくるから・・・見られたら・・・」
手を繋いでる状態。
周りの人から見たら・・・きっと・・・。
「彼女って思われるかもな」
「・・・!!」
白石君の口から思っていた事を言われてドキッとする。
白石君もそう思ってたのかな?
なら・・・私が彼女って思われたら迷惑なはず。
なのに・・・なんで?
どうして手を離してくれないんだろう?
どうして手を離す代わりに優しく笑って、手をギュッと力強く握るんだろう?
「・・・みんなが白石君の事見てるの気づいてる?」
「そんなん気にしとったら負けやで?ストレス溜まるだけやし・・・。そういう如月さんも結構見られとるけど」
「・・・私は冷たい視線で見られてるもん。白石君とは違って」
「・・・女の方はな」
「・・・?」
「そんな首傾げて可愛い顔しとったら、いつか襲われるで?」
「襲われる?・・・何に?熊とか?」
「そうやな・・・例えば・・・」
そういうと白石君の顔が近づく。
「目の前にいる人とか」
「白石君?・・白石君は優しいし真面目な人だから襲わないよ。信頼してる・・友達だから」
「はぁ・・・襲われるって意味わかっとる?」
「よく分からないけど・・・白石君は襲わないと思うよ?」
「・・・敵わんなぁ・・・如月さんには」
「・・・・?」
「白石ー、如月ー遅いでぇ!!」
「ホンマ人騒がせですわ・・・先輩ら」
気がつけば目の前に謙也君や財前君、小春ちゃんや一氏君まで皆がいた。
「あら〜ん?蔵リンと夕歌ちゃん、しっかり手繋いでるけど・・・そこまで進行したん?早いわぁ〜」
白石君と手を繋いだままの事に気づいた私は小春ちゃんにそう言われて真っ赤になってしまった。
謙也君や・・・皆に見られたなんて・・・恥ずかしい。
「でも夕歌の制服、ウチのやないから白石と遠恋してるように見えるな」
「如月先輩、制服できてないんですか?」
「そ、それは・・・」
もともと制服なんて作ってない。
東京に帰るつもりだから。
なんとなく皆に黙ったままにしてる真実。
今言ったりなんかしたら、絶対怒られると思う。
きっと信頼も無くしちゃう。
それは・・・白石君だって同じだろうな・・・。
『まだ出来てない』
そう言おうと思ってたのに・・・
「如月さん、隠し事はアカンで」
白石君にそう先に言われてしまった。
どうしてこの人は分かっちゃうんだろう?
知られてしまうのだろう?
「せやな。夕歌隠し事はアカンで」
「素直に言ってええですよ・・・先輩。いつも自分の事より皆の事考え過ぎなんとちゃいます?」
「如月ちゃん、優しい子やからなぁ〜!可愛過ぎて抱きしめたくなるわぁ〜」
「小春浮気かっ?!・・・まぁ、コイツの馬鹿に優しいトコロは認めるけどな」
みんなの優しい言葉に思わず涙が出てくる。
みんなに言わないほうが良いと思ってたのに・・・四天宝寺のみんなにとっては真実をちゃんと言うのが一番良かったみたい。
隠し事が無い関係が一番良い。
「・・・制服、作ってないの」
「頼むの忘れたんか?」
謙也君の言葉に私は首を振る。
「・・・白石君には・・言ったんだけど、私の・・・お母さん・・病気で入院してて・・余命も少なくて、だから大阪に来て・・・でも・・お母さんがいなくなったら・・東京に戻ろう・・って・・」
この大阪での生活が後どれだけ時間が残ってるのかなんて誰も分からない。
「・・いつかは戻るんやな」
その白石君の呟きなのか・・・問いかけなのか・・・区別のつかない言葉に私はただ涙を流しながら頷くことしか出来なかった。