『恋樹』


□09・ひとりぼっち
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いつもの練習時間。

ラケットを握りながら、青い空を眺めとった。


今日の練習は、いつも居る如月さんが風邪で休み。
そのせいか、いつもの元気さや笑いが部にあらへん・・・。
如月さんがいない部活って、こんな寂しいもんなんや。


・・・色々考えとったら、後ろからラケットで謙也に頭を叩かれとった。
「白石〜、突っ立ってへんで練習せなあかんで」
「・・・せやな」
「悩んどる顔しとるなぁ〜、あっ!分かったで!夕歌の家でなんかあったんやな?!」
「話しただけやで?」
「そうなんか?白石が家に行くほど心配すんの珍しかったから・・・もっと何かあったんかと思ったわ」




せやな。


あんなに心配すんのは俺自身、珍しい思ったわ。


・・普通、部員やマネージャーやからって風邪になっても家までは行かへん。
部活あるからな。部長としても部を放置するのはアカン。


メールで済ますのが当たり前や。


如月さんが風邪って聞いて、ちゃんと謙也の携帯からやったけど・・・メールした。

けど心配で・・・授業も昼食もまともに出来へん。


気がつけば、オサムちゃんに家の場所聞いて走り出しとった。



部長なのに部活抜け出して。


如月さんの笑顔が見たくて。



最近の俺・・おかしいわ。
全然、完璧でも絶頂でもあらへん。




「謙也さん、次小春さんたちと試合っすわ」
「今行くで〜。白石もちゃんと練習するんやで?ほな!」
我に返れば、謙也は試合しに行ってしもうた。

俺も練習せなアカンと思うんやけど・・・全然、元気がない。


溜め息ついとると財前が近づいてきた。



「白石部長、ちょっと聞いてええですか?」
「ん?ええで」



財前が質問なんて珍しい・・・。

一体何やろ?




「部長って如月先輩の事、好きなんですか?」




思いもしない質問に顔が赤くなる。



「・・・なんでそうなるん?」
「昨日だって・・わざわざ家まで行ってましたし、如月先輩が謙也さんと仲良くしとるとこ、不細工な顔で見てましたし」
「不細工は失礼やない?」
「それに・・・『夕歌』」
「・・・!」
「・・・って謙也さんが言うと、今みたいに嫉妬した顔してますわ。自分も呼びたいんちゃいます?」


謙也があの日、いきなり如月さんを名前で呼んどったから・・・ビックリした。
如月さんも謙也を名前で呼んどったし・・。
そんな場面見て・・・無意識に謙也に嫉妬してたのは事実や。


でも下の名前で呼んでほしいか聞いてきた如月さんの誘いを断ったんも事実。



如月さんが、俺のこと下の名前で呼んでほしいちゃうんか・・・って思ったんは友達としてや。


・・・俺は友達以上の関係として名前で呼んでほしい。




「俺・・・如月さんのこと、友達ともマネージャーとも見れへん・・・財前君の言うとおり」
「・・・・・・」
「せやけど、家に行ったとき如月さんは言っとった・・・俺のこと、友達やって」



『友達なのに』



その言葉が頭ん中で反響する。




「如月さんが・・・今はまだ友達以上の関係を望んでないんやったら・・・今のままでええ。名前を呼んでほしいとか・・・思わへん」
「如月先輩、結構鈍感ですよ?白石部長、我慢できなくなると思いますわ」
「人を好きになるちゅうんは、確かに襲いたくもなるけど・・・同時に守りたいとも思うんやで?」
「部長の場合、襲いたい気持ちのほうが強そうですけど」
「・・・財前君には敵わんなぁ」


確かに今までだって、何度も思ったわ。

あんな可愛ええ顔されたら、我慢できなくなる。

抱きしめたい。

自分のものにしたい。


いつか理性失うときが来るかもしれん。


けど、あの事を話すまで・・・如月さんが友達以上の関係を望むまで俺は待つつもりや。

ずっと。

いつまでも。









練習が終わって・・・自主練もし終わって部室戻って、制服に着替えとったら電話がかかってきた。


誰や?


・・・って思って待ち受けを見る。



『如月 夕歌』


その名前に財前との会話を思い出して、顔が赤くなってしもうた。
通話ボタンを押して電話に出る。

「・・・どないしたん?こんな時間に」
「あっ!白石君?!ごめんね・・・こんな時間に。自主練が終わった頃かな・・・って思って電話したの」
「さすがマネージャーやな。自主練、終わったとこやった」
「本当?」
「せやで。・・・そういえば風邪・・・大丈夫なんか?」
「うん!おかげ様で。・・・実はそれを伝えるために電話したの・・・あと・・・」
「ん?どないしたん」
「・・・白石君の声がね、聞きたくなったの」
「明日聞けるのに?」
「・・・うん。今日どうしても聞きたくなって!・・・ごめんね、迷惑だよね?」

きっと電話の向こう側の如月さんは今、不安で・・目が潤んどるんやろうな。

俺は優しく・・温もりのある声で答える。

「迷惑じゃあらへんよ・・・。俺も聞きたい思うてたし・・・如月さんの声」
「えっ?!」
「でも・・・やっぱ笑顔が見たい」
「・・・・白石君の言葉、甘いよ・・・」
「糖度100%やで?」

笑いながら会話する。

このまま時が止まったらええ。

でも悪戯のように時間は過ぎてしまう。


「じゃあまたね。白石君」
「ん。ほな・・・」


耳に残る声の温もりが愛しくて、たまらなかった。

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