『恋樹』


□07・たこ焼きパーティー
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転校して・・白石君や忍足君・・テニス部の皆にお世話になりながら、3日があっという間に過ぎた。


初めは緊張や心配で一杯だった学校生活も、だんだんと慣れてきて・・・たくさんの友達もできたから嬉しい。

それは・・・きっと昨日のあの時から・・・素直に自分の思いを人に伝えよう!って1歩を踏み出せたおかげだと思う。

それに・・・白石君の答えを聞くためにも、もっと成長して大人になろうって決めたから。



今の私がいるのは


あの樹の存在と白石君の存在があったからこそで・・・


何かお礼したいなぁ・・って思う。

でも一体何が良いんだろう?

あんまり高いものは贈る事はできないし、手紙とかだと、あんまりパッとしない・・・・。

樹の人のことなんて、全然知らないし・・白石君のことも、そこまで詳しくない。
・・・あげて喜ぶものって何だろう?




授業中もずっと考えていたんだけど、なかなかいい案が思い浮かばなくて・・・気がつけば、お昼になっていた。


食堂に行くと忍足君に話しかけられた。


「如月、ずっと悩んどったけど、どないしたん?分からない問題でもあったんか」

珍しく私が考え込んでる姿を見て、笑ってきた。



忍足君ってば、人の苦労も知らないでっ!



私は頬を膨らませながら否定する。


「忍足君と違って、私はそこまで馬鹿じゃないですっ」
「なんやっ!ヒドっ!そこまで否定しなくてもええやん!」
「誰だって毎回補習を受けてる人に、言われたくないよ・・・って白石君は?」


いつもなら忍足君の隣にいる白石君がいない。


「あぁ・・・白石なら、さっきオサムちゃんに呼び出されとった。練習試合のことで」
「そうなんだ」



そっか・・白石君がいないとなんか寂しい。


色々と話したかったんだけど・・・。




でも忍足君を見ていたら、そうだっ!と思って聞いた。

白石君がいない間に・・・

「ねぇ、忍足君って白石君のことよく知ってるよね?親友だもんっ!」

突然の私の質問に忍足君が驚いた顔をする。

「えっ!ま、まあな」
「じゃあ、白石君が今欲しい物とか、あげたら喜ぶものとか分かる?」
「なんや?如月、イキナリ・・・。クリスマスも白石の誕生日も、まだ先やで」
「ほら、色々とお世話になってるから・・・なんか贈りたいなって思って。あっ!そしたら忍足君にもあげたいなぁ。昨日・・相談にのって貰ったし・・・何が良い?」
「何やねん!そのついでみたいな言い方!」
「本当に、純粋にあげたいって思ってたのに忍足君は・・・そういうこと言うんだ」
「スマンっ!許してっ!」
「じゃあ、何がほしい?」



忍足君が腕を組んで必死に考える。
1分してやっと答えが返ってきた。


「忍足君いうのやめてほしいわ」
「えっ?なんで?」
「あぁっ!べ、別に如月のことを・・思っとるとか、今までの関係だと我慢できんってわけやあらへんで!」

忍足君が真っ赤になりながら否定する。

私を思うとか、今までの関係以上になりたいって・・どういう意味だか良く分からないけど。


「あんな。忍足君って言われるとな・・・従兄弟の顔、思い出すんや」
「従兄弟って・・・氷帝の忍足君?」
「なんやっ!知っとんの?!」
「うん・・そのマネージャーになったから、色々とテニスのこととか、他校のこととか知っておかないとなぁ・・・って思って調べてたら」
「そうやったんか。なら、話は早いわっ!忍足が2人もいたら、どっちなんかわからへんやろ?」
「うん・・・確かに」
「やから、忍足君やなくて、謙也って言ってほしいんよ。それに名前で呼ぶ方が友達らしいしなぁ」

友達って言葉に嬉しくなる。

大阪に来て、初めての友達は白石君と忍足君だった。
確かに私も友達と名前で呼び合う関係には憧れる。


「じゃあ、これからは忍足君じゃなくて謙也君って呼ぶようにする」
「おう!俺も夕歌って呼ぶようにするで」


初めての名前での呼び合い。

名前で呼び合っただけなのに、一気に友達らしく見えて驚く。

言葉ってこんなにも大きな力があるんだ。


「でね、謙也君。本題に移るんだけど・・」
「白石が喜ぶものやろ?・・・白石も名前で呼んでほしいんちゃう?」
「えっ?!」

思わず顔が真っ赤になる。


白石君を名前で呼ぶ?


想像できないし、恥ずかしいよ!


「無理っ!!ほかには無いの?」
「俺のことは名前で呼べて、白石は無理なんかっ?!・・・せっかく、ナイスアイデアやったのに。・・・うーん、せや!弁当作るのはどや?」
「お弁当・・・?白石君の好物って何?」
「えーと・・・チーズリゾットやで」


チーズリゾットかぁ。
お弁当には入れられない・・・。


「でも、好物入っとらんでも嬉しいんちゃう?頑張って作ってくれたモンなんやし、気に入るで」



料理は一応・・できることはできるんだけど、
人に食べてもらえるほど美味しくも作れないし、自信もない。


喜んで貰えるかな・・・?


白石君、笑って食べてくれるかな?









次の日の朝、私は早起きして台所へ向かった。

野菜を切ったり、卵をかき混ぜたりしてお弁当の中身を作っていく。

白石君、健康のこと気にしてそうだから、魚料理や緑野菜・・といったバランスやカロリーに注意しながら、昨日の夜、お弁当の中身のアイデアを練った。

おかげで少し寝不足。


時々、眠くなるけど・・・

それでも白石君にお礼がしたいって思うから頑張って作り続けた。

完成した料理をお弁当箱に詰めていく。

私のお弁当箱は東京から持ってきた、小さい水玉のもの。

白石君のは、昨日葉月さんに頼んで出してもらった・・・偶然にも白いお弁当箱。


どんな顔するだろう?

喜んでくれると嬉しいな。












早く白石君の顔が見たくて、学校へと足を向かわせたかったんだけど、その前にあの樹の場所へよった。


この樹にもお礼しなくちゃ、意味がない。



私は樹の枝にプレゼント・・・クッキーの入った袋を結ぶ。

昨日の放課後、家に帰って作ったクッキー。
チョコ味で・・ラッピングはもちろん青いリボン。


プレゼントを結び終わった後、隣の枝の青いリボンを解いて返事を読む。



「素直に気持ちが言えるようになって、良かったな。今度は大人になるか・・・試練多いな。まぁ・・頑張りや、応援しとるで」



いつも通りの優しいメッセージに思わず笑みがこぼれる。
私もオレンジのペンを鞄から取り出して返事を書いた。



「今日はいつものお礼にとクッキーを焼いてきました。美味しいか分かりませんが、食べてください」




明日のメッセージが楽しみ。

美味しく食べてくれるといいんだけど・・・。







午前中の授業が終わってお昼。

皆、ぞろぞろと席を立って食堂へ行ったり、机をくっ付けてお弁当を食べ始めたりする。

「謙也、如月さん、食堂行かへん?」

白石君がそう言って、いつものように言ってきた。

いつもなら、謙也君が「行くでっ!!」って元気よく廊下を飛び出すんだけど、今日は違う。

「堪忍な白石、夕歌!今日は小春達と食べる約束したんや」
「謙也が小春達と食べるなんて、珍しいな」
「ほな!急がんと待っとるから、白石、夕歌と仲良く食事するんやで!」


これは謙也君が、私が白石君を喜ばせるために提案した作戦で、謙也くんは小春ちゃんたちのところへ行き、今日だけ・・私と白石君、2人で昼食を食べる・・・というもの。


「そっちの方が、夕歌も白石に素直に礼が言えるやろ?俺いても邪魔やし」
と謙也君が気を使ってくれた。


そういうところだけ・・大人で優しいんだよね。


謙也君は私とすれ違うとき、肩をポンッと叩いて「頑張りやっ!」・・・と言ってくれた。



「ほんなら如月さん、早よ行こや」

白石君がそういって、くいだおれビルの方へ向かおうとしたから、私は白石君の背中をギュッと掴む。

「如月さん、どないしたん?」
「え、えーと...今日ね、お弁当作ってきたの」
「なら教室で食べようか?俺は購買でパンでも買うてくるわ」
「あっ!そうじゃなくって・・・」
「ん?」
「その・・・いつものお礼・・・ってことで、白石君にもお弁当、作ってきたの。あっ!でも嫌なら食べなくても大丈夫だし・・・ほらだって・・・」

慌てふためいていたら、白石君に手を掴まれて引っ張られ、自然と走り出す。


突然過ぎてビックリしてしまった。



「えっ!ちょっ・・・」

「早よ屋上行こっ!」



白石君、今どんな気持ちだろう?



嬉しいのかな?



怒ってるかな?



教室を出るときに少し見えた白石君の顔は少し赤くて笑顔。

白石君に手を引かれながら、ドキドキして屋上へと続く階段を上った。




屋上に着くと、そこでお昼を食べているのは
3,4組。
立派な食堂や購買があるし、しかも今は12月と寒いから、人が少ないんだろうな。

給水塔の裏側にそっと腰を降ろす。


「はい、これ白石君の」
「おおきに!・・・嬉しいなぁ、お弁当作ってくれるなんて」
「味は美味しいか分からないけど・・・」
「どれどれ・・」

白石君が蓋を開けるのを、ドキドキしながら見る。

喜んでくれるかな?

何て言ってくれるかな?



蓋を開けた白石君は、顔を赤く染めながら口に手をやっている。


あぁ・・・やっぱり嫌だったかな?



そう思ったときに白石君が口を開く。

「ホンマ、嬉しすぎて死にそう・・・・。このお弁当、何時から作ってくれたん?」
「えーと・・・6時くらい。でも中身どうしようかって2時くらいまで考えてて・・・」
「俺のためにそこまでしてしてくれたんか」
「だって・・白石君にはお世話になったから、いっぱいお礼しないとって思って」

すると白石君が左手で私の前髪をそっと撫でる。
その瞬間・・・ドキッとしてしまった。

「その気持ちだけで、充分嬉しい」
「・・・・!」

白石君のひとつひとつの言葉や行動は、甘くてドキドキさせて、意地悪だよ。


「・・・よし!早よ食おっ!」


そう言って、箸を手にする白石君の目はキラキラ輝いていて嬉しくなる。

「うん!うまいっ!!如月さん、料理上手なんやなっ」
「本当?それ、お世辞とかじゃない?」
「疑うとかヒドっ!ホンマやで。。ホンマ、めちゃめちゃ美味しい」

お弁当の中身が、あっという間に無くなっていくから、本当に美味しく食べてもらえてるんだって思った。


そういえば、お礼の候補の中に名前で呼んであげる・・・っていうのがあったのを思い出す。
謙也君は絶対喜ぶ・・って言ってたけど、本当にそうなのか確かめてみたいな。


「白石君って名前で呼んで欲しかったりする?」

そんな私の質問に、白石君はビックリしてむせそうになる。

「・・・!いきなり、何や?!・・・そういえば如月さん、謙也のこと名前で呼んでたな」
「うん、名前で呼んで欲しいってお願いされたの。でね、謙也くんが白石君のことも名前で呼んであげたら喜ぶよって言ってたから、
どうかな??って思って」
「・・・せやな・・・俺は・・今はええわ」
「えっ?」

白石君が笑顔で私を真っ直ぐ見ていう。



「もう少し・・・時が経って・・・如月さんが気づいてくれたらな」




そういう白石君の声は、いつも以上に甘くて苦かった。
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