『恋樹』


□06・意地悪な後輩
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白石君は、本当はどうして・・・私にマネージャーをやってほしい・・・って言ったのかな?


それが気になって仕方なかった。


色々と考えてしまって、頭がボーとする。こんなんじゃダメって首を振って気持ちを落ち着かせた。
明日から、マネージャーとして頑張るって決めたから・・・気持ちに左右されてちゃダメだよ・・・。


何か別のことを考えようっ!!


そう思って返事がきてないか、私はあの樹へと確認しにいった。





樹の場所へ行ってみると、青いリボンが結ばれていたから嬉しくなる。
今回はどんな返事が書かれているんだろう・・?
そう思ってリボンを解いて返事をみると、今の私に・・・ちゃんと考えろっていうような内容だった。

「思ったこと、ちゃんと素直に言えるようになるとええな」

心に直接、痛みが走る。






私は樹に願ったんだ。



羨ましがったんだ。





ちゃんと思いを伝えられる人になりたいって。
思いを素直に言える貴方が羨ましいって。


なのに・・白石君に聞くのを止めようとしていた。



気になるけど・・・怖くて。

一歩先へ進まなくちゃいけないのに・・・。


その夜、私は眠れなくて・・・・・


樹への返事も書けないでいた。









学校に登校して教室につくと、忍足君と白石君が話していて、白石君の顔を見ると思わず昨日、小春ちゃんが言ってたことや・・樹のことを思い出して顔が赤くなる。

ダメ・・いつも通りにしてなくちゃ・・。

そう思って白石君のほうへと進んで、「おはよう」って言おうと思うけど、口から出ない。
忍足君が私に気づいたみたいで、笑って挨拶してくれた。
「おぉっ!如月、おはよう!」
「おはよう、忍足君」

忍足君には挨拶が出来てホッとした。

でも・・・

「如月さん、おはよう」

白石君に挨拶されると、一気に声が出なくなる。

「・・お、おはよう」

私は精一杯、出せる声で白石君に挨拶して、すばやく自分の席へ向かって、机に鞄を置く。
絶対、変に思われた。
後ろにいる白石君の表情が気になったけど、怖くて見ることが出来ない。
きっと心配した顔してる。






「なんや?白石と会って2日しか経っとらんのに、もうケンカしたん?」

授業中、忍足君にいきなり聞かれて思わず驚いてしまった。

「なっ!別にケンカしたわけじゃないよ?」
「なら、何や?朝の白石への態度。いつもと変わってたで」
「そ、それは・・・」
「白石も、俺何か悪い事したかな・・って心配しとったし」
「・・・・・」

忍足君の言葉に返事が出来ない。

小春ちゃんの言ってたこと、本当なのか忍足君にも聞いてみるべきかな・・・?

「ねぇ、忍足君・・・」
「なんや?如月」
「今までマネージャーいなかったの?」
「せやで」
「マネージャー候補はいたんでしょ?」
「おったで〜、いっぱい」
「でも白石君が断ったんでしょ・・・?」
「そうやけど」
「じゃあ、どうして白石君は私をマネージャーに誘ったのかな?」



言ってしまった。



忍足君が答えられるわけないのに・・・。



「確かに今までもマネージャー候補を俺やオサムちゃんが見つけては、どうや?って白石に聞いたんやけど、断られてしもうた」
「・・・」
「マネージャーおらんと大変やのは、白石が部長やから・・・1番わかっとったはずやのに」
「・・・うん」
「如月を推薦したときもな、また断られるんちゃうかな〜って思っとった」
「・・・うん」
「でも、白石が如月に小さい声で聞えんように何か言ってる姿見て・・まさかって思ったら・・・」
「・・・私がよろしくお願いしますって言ったから、白石君がやって下さいって言ったんだって忍足君は確信したんだよね・・?」
「まさか白石がお願いするとは思わんかったからビックリしたんや」
「・・・そうなんだ」
「あっ!でも、そうなるって決まってたんや!たぶん、あの日から・・・」
「えっ?」
「ほら、如月見学しにウチに来たやろ?そんとき、白石と仲良く話しとった」


確かにテニスボールを拾うお手伝いをして、お礼にって白石君が何かおごってくれるって言ってくれて・・・約束して・・・。



でもそれがどうしたんだろう?



「珍しいんやっ!白石が女子と仲良く話すなんて・・・」
「そうなの?誰にでも優しいかと・・」
「白石、女子にモテとるの知っとるやろ?」
「うん」


学校に行くと女の子が白石君を見ては、はしゃいだり、話しかけてるのを見る。


「白石、攻めが強い女子とか苦手なんや。女子がいると適当な理由言って逃げるのが、当たり前なんや」
「そうなの・・・?」
「せやから、如月と話とるの見て珍しい思ったわ。あの白石が・・・って」
「・・・うん」


忍足君が笑って最後に言ってくれた。


「気になるんやったら、素直に白石に聞けばええやん」






『思ったこと、ちゃんと素直に言えるようになるとええな』


そうだね、ちゃんと聞いた方がいい。



白石君にちゃんと。。












放課後になって。

私は初めてのマネージャー仕事、白石君は部長で忙しくて聞く暇なんてなかった。
テニスボールを運んだり、タオルを用意したりしながら、白石君のほうを見ると頑張る姿が眼に映る。

いつ見ても白石君は真面目でしっかりしてて・・そんな姿がキラキラ輝いていて・・・白石君なら、質問にちゃんと答えてくれると思えてくる。


1日の練習が終わって・・・だいたいの部員が帰った後、私は自主的に残って部室を掃除していると、頬っぺたを指で押された。


「わっ!!」


驚いて思わず、大きな声をあげてしまう。

「そ、そんな大きな声あげへんでも」

後ろを振り向くと、白石君が立っていた。
話があるって言わないと・・・っ!!
言おうとした瞬間だった。


「如月さん、この後ヒマ?」



「えっ・・・・???」











部室の掃除が終わった後、白石君に連れられて・・・なぜか、ストリートテニスをやることになった。


白石君がラケットを鞄から2本出して、私に1本渡す。

「えぇっ!!無理だよっ!私、テニスやった事ないよ?」
「基本は教えたるから・・・テニスやってみたい思わへんの?」
「ううん・・やってみたいとは思う・・・」
「なら、決まりや!」

・・・と言って、白石君は基本の事を私に丁寧に優しく教えてくれた。
グリップの握り方とか・・・打ち方とか色々。
サーブは難しいから、と言われてやらなかったから全部は教えてもらわなかったけど。



しばらく教えてもらって・・練習した後、白石君と勝負することになった。



手加減してくれる・・・とは言ってたけど、





相手はテニスの聖書だよ?



全国に出場するほど強い四天宝寺テニス部の部長だよ?



「俺から1ポイント取れたら、たこ焼きおごるで」
白石君が笑顔で私に向けて言う。
今はその笑顔が意地悪にしか見えない。
「無理だよっ!!」
「ほな、いくで」
白石君がポーンと優しくボールを打ってくれたんだけど、ラケットを振ってもあたらなかった。
それが40回くらい続く。


方向音痴の次は、運動音痴なのかな・・・?


ちょっと涙目になりながらラケットを振ったら、やっとボールに当たった。

威力はないけど、白石君のコートに入る。



「やった・・・!!」


「アカンっ!!」


白石君は油断してたみたいで、急いでボールのほうへ走るんだけど、2回ボールがバウンドする。

私は奇跡的にも白石君から1ポイント奪ってしまった。

嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。



「やっと笑ってくれたな」
「え?」




もしかして私に・・・気を使ってくれた?

心配して、テニスに誘ったの?


笑顔にするために。




白石君の優しさを知って・・顔が心が・・・熱くなる。

「たこ焼き、おごらんとな」
って言ってる白石君に近づいて、服の裾を手で掴んだ。


「待って・・・あのね、たこ焼きはいいから、この質問に答えてくれる?」

白石君が突然の私の行動に驚いてる。

「ん。言うてみ?」


そういって・・・私にちゃんと向かい合ってくれた。



私も勇気を出して聞く。



「・・・どうして今までいろんな人を断ってきたのに・・・私をマネージャーに選んだの?」
「言うやん・・・優しくて・・」
「理由になってないよ・・・!白石君は今まで近づいてきた女の子は皆、自分たちの外見ばかり見てて、本当に心から仕事をしたいとは思ってない子だったから・・・断ったんだよね?そんな気持ちでテニス部に入ってきてほしくなかったから・・・」
「・・・せやな」
「だけど、私は白石君にどうしてマネージャーになりたいか言ってなかったし、会って数日しか経ってないのに・・・どうして私なの?小春ちゃんは裏があるって言ってたけど・・・裏って何・・・?本当はどうして私を誘ったの?」
「・・・あのとき言った理由もホンマの理由やで?ボール拾い手伝ってくれる優しい子やったし、自分らのこと外見やなくて中身を見て接してくれた。それに俺が今まで断ってきた理由も当たってたしなぁ・・・言うてへんのに」
「なんとなく想像したの・・・。私だったら断る・・・だから白石君もそうなのかなって」
「それはホンマにテニス部を思ってないと出来ないと思うで?俺の考えとることは、常にテニスのことや・・・部長やから」
「うん」
「如月さんならテニス部の事、1番に考えてくれる思ったから誘った・・・まぁ、小春のいう通り・・・裏ちゅうか別の理由があるのも事実やな」
「・・・・別の理由は何?」


そう聞くとキラキラと輝く眼を細めて、白石君がニッコリ笑った。


「それは如月さんが、もう少し大人になったら話すわ」

意外な白石君の答えに驚いてしまった。

「えっ!それっていつになるの?!何ヵ月後?何年後?」
「ん〜、どうやろ?」
「お願い・・!答えてっ」




いくらお願いしても話してくれる事はなくて、大人になるまで返事を聞くことを我慢する事にした。







白石君と別れた帰り道、私は樹の場所へ行って昨日、書くことのできなかった返事を書く。


「今日、初めて思いを素直に人に言えました。でも大人になれるのは、まだまだ先の話みたいです」

いつか大人になって・・・白石君の答えが聞ける事を願いながら、樹にメッセージを結びつけた。
















〜白石side〜


ホンマ・・・あの子の言葉や表情に心が乱されてしまう。


笑顔をみると、ドキッとするし・・・笑顔がないとメッチャ心配になる。

何やねん・・・わからへん。
今まで付き合うた子はいるけど、ここまで心配したりしたっけ・・・?


「・・・どうして今までいろんな人を断ってきたのに・・・私をマネージャーに選んだの?」

って聞かれたとき、理性を失うかと思った。


黒くて長いサラサラの髪。

真っ白な肌。

長い睫毛。

キラキラした瞳。


可愛い過ぎて・・・違反や。



もしかしたら・・・如月さんのこと・・・。


・・・この思いはしばらく心の中に止めておくことにする。

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