『恋樹』


□04・キッカケ
1ページ/1ページ

放課後、私は白石君に連れられてテニス部へ見学しに行く事になった。

もうマネージャーをやるって決めたから、本当は仕事した方が良いと思うんだけど,白石君が・・・
「いきなり仕事もキツイやろ?如月さん、今日転校初日やし・・・部活も見たことあらへんし・・・」
と言ったので、今日は見学だけ。
確かに転校初日で疲れたし、こんな状態じゃ仕事なんてできない。更に皆に苦労をかけてしまうだけだと思うから助かった。




昼食が終わっての午後の授業は、見学のことで頭が一杯で・・・先生の話なんて耳から通り抜けていく。


テニス部ってどんな感じなんだろう?

白石君や忍足君とか・・・優しい人たちがいる部だから、きっと良い部活なんだろうな。


そんな事を考えてると、自然に顔が笑ってしまう。

「如月、顔ニヤケとるで」
と忍足君に言われてしまった。
思えば、忍足君の席は私の席から列を挟んですぐ隣。

さっきの顔見られてたんだ。


恥ずかしい。


思わず、顔や耳が真っ赤になる。

「わっ!如月、堪忍なっ!!別にまじまじと見たわけやあらへんし・・・」
忍足君が必死になって誤る。
「ううん!別に気にしてないから大丈夫」
「けど、まだ顔赤いで・・・ホンマに大丈夫か??」
心配する忍足君に、忍足君の後ろの席の人が肩を叩いて小さな紙を渡す。

「白石から手紙やで」

白石君の席は窓際の1番後ろの席。
忍足君の席まで結構距離がある。
たくさんの人が協力して手紙を忍足君のところまで、まわしてくれたみたいだった。

そこまでして・・・一体なんて書いてあるんだろう?

自分宛の手紙ではないんだけど、少し気になってしまう。
「なんや如月、気になるんか?」
「うん!!」
「なっ、そ、そんな可愛ええ顔、授業中にするものやないでっ!違反やっ!」
って言って忍足君の顔が赤くなる。
そういう顔をする忍足君の方が可愛く見えるよ。
忍足君は手紙を広げて、私に聞えるように内容を読み上げてくれた。

「謙也、如月さん泣かせたらアカンで。毒手ほしいんか?・・・・やって。いらんわっ!!ボケっ!!」

忍足君が白石君の手紙にツッコミを入れる。
毒手ってなんだろう?・・・って考えて、白石君の方をチラッと見ると、忍足君の方を見て笑っていた。
いつも私に見せてくれる優しい笑顔じゃなくて、少し意地悪な笑顔にドキッとしてしまう。



あんな顔もするんだな・・・。





「白石のせいで午後の授業散々だったわ〜」

忍足君が溜息をついて、顔を机につける。

「せやけど、謙也が補習になったんは俺のせいやないで」

と白石君が答える。

忍足君は小テストで5点という点数を取り、先生に補習していけ、と言われていた。
そういえば四天宝寺に見学しに行った時も忍足君、補習していたような・・・?

「ほな、補習頑張りや、謙也。如月さん、部活行くで」
「うん。じゃあ忍足君、補習頑張ってね」

教室を出るとき、忍足君の方を振り返って見ると覚えとけっ!という顔をして、ものすごく睨んでいた。





いざテニス部の前に行ってみると、やっぱりテニスコートへの入り口の・・・お寺みたいな大きな扉に驚いてしまう。

「如月さん、そこで待ってくれへん?着替えてくるから・・・。一人じゃ扉開けて入れへんやろ?」
「・・・うん。やっぱりこの扉には慣れない」
「ん。すぐ着替えてくるから、ちょお待っといてな」

そういうと部室の方へと向かっていった。
白石君、私がこの扉にまだ慣れてないこと、気づいてくれたんだ。
本当に白石君は気が利いていて・・優しい。


しばらく近くの木に寄りかかって白石君を待っていると、目の前の道を男の子が歩いてくる。



あっ・・あの男の子、知ってる。


耳にカラフルなピアス。


あの日、忍足君といた男の子だ。
男の子を見てると、タイミングよく白石君がユニフォームに着替え終わったみたいで、部室から出てきた。

「財前君やないか」
「白石部長・・・謙也さんは?」
「また補習やで」
「やっぱり。謙也さん馬鹿だから・・・まぁ、しゃあーないっすわ」

へぇ、財前君っていうんだ・・・。
白石君に敬語だから1年生かな?忍足君に対して毒舌。。同じ部の先輩なのに。

「部長、この人誰か聞いてええですか?」
財前君が私の方を指さして、白石君に尋ねる。
「あぁ、転校生でテニス部の新しいマネージャーの如月さんやで」
「は、初めまして。新しくマネージャーをやらせていただくことになりました。如月 夕歌です!よろしくお願いしますっ」
「1年の財前 光っすわ。足引っ張らんでくださいね、如月先輩」
「うぅ・・・努力します・・・」

財前君の言葉って的確で、心にグサッてくる。誰に対しても毒舌なんだろうな・・・きっと。


財前君は失礼します、と言って部室の方へ行ってしまった。
自然と白石君と二人っきりになっていて・・・これで見るのは2度目だけど、四天宝寺のユニフォーム姿の白石君は、制服の時の白石君と雰囲気が違って、ドキドキする。

「如月さん、中入るで?」
「・・・うん」

私は白石君の後ろにピッタリ付きながら、扉の前へ行く。

「そんな怖がらんでも、ええで?」
白石君が扉を前に怖がる私を心配そうに見る。
「でも・・・ほらっ!この扉だってそうだし、部の皆さんと仲良くできるか不安で・・・緊張しない方がおかしいよ・・・」
「ぷっ!何やねんっ、それ!」
「笑うなんてひどいよっ!!真面目に言ってるんだよ・・・」


白石君に笑われて、顔が真っ赤になる。
だってテニス部の人と仲良くなりたいって思うから・・・。



「部の皆が気に入らへん訳ないやろ。こんな可愛え子で・・優しい子やったら、皆好きになるわ」
「・・・・!」
白石君の言葉から、『可愛い』って聞えて思わずドキッとする。
「心配せんでええって。如月さんが嫌な思いする部活じゃあらへんよ。皆、明るくて良い人たちやで」
「うん・・・」
「ほら!笑顔、笑顔」

白石君の優しい励ましに笑みがこぼれる。


「ん。やっぱ如月さんは笑顔が、めっちゃ可愛ええ」


またもや白石君の大胆な発言に顔が真っ赤になりながら、扉が開けられてテニスコートが目の前に広がる。


部員たちの笑い声。

必死に練習する姿。


初めて目の前にするテニスコートに私は目が輝いてしまう。

「どや?これが四天宝寺テニス部やで」

白石君が自慢げにそう言ってきた。
その言葉に、本当に部を大切に思ってるんだなって考えさせられる。
部の話をするときの白石君の瞳は本当に綺麗。


「みんな練習やめやーーっ!」

白石君の掛け声で、皆の動きがストップする。やっぱり部長なんだな・・・。こんなに大勢の人をまとめられて、すごい。

「ほな、今日は新しいマネージャーを紹介するで」
白石君と目が合って・・小さな声で
「緊張せんでええよ」
と言ってくれた。
私も息を大きく吸って、心を安心させる。

「2年の如月 夕歌です。今日転校してきたばかりで、四天宝寺のこともテニス部のこともよく知らないんですけど・・・精一杯頑張るので、よろしくお願いします!」

私が自己紹介を言い終えると、ほとんどの人が笑顔で挨拶してくれたり・・話してくれた。

「おぉ、よろしゅうっ!!」
「マネージャーがおると、楽になるわ〜」
「仕事大変やと思うけど、頑張りや!」

白石君の言った通り、本当にいい人たちばかり。
この部なら、頑張っていける気がする。


「蔵リン、可愛ええ子見つけたわねぇ〜」
「小春、浮気かっ?!」
白石君に話しかけたのは、眼鏡をかけた・・仕草とかが女の人っぽくて・・これは世にいうオカマの人。
もうひとりは、頭にハチマキをしてる。

「如月さん、紹介するで。四天宝寺、最強のダブルスの小春とユウジや」
「夕歌ちゃん、初めまして〜。。金色 小春言いますぅ!小春ちゃんって呼んでな!」
「初めまして・・小春・・ちゃん?」
「あ〜ん!恥ずかしがる顔も可愛ええわぁ〜〜っ!!」

小春ちゃんと私の会話に、ハチマキをした人が割り込む。

「一氏 ユウジや。小春奪ったら死なすで」
「・・・はい」
ものすごい怖い目で睨まれて、ビックリした・・・。
一氏君って、小春ちゃんのこと好きなのかな・・??でも男の人同士って・・・;;

気がつけば目の前にお坊さんみたいな・・・長身の人が立っていた。
「如月はん、初めまして。石田 銀と言います」
「あっ!よろしくお願いします」
あまりにも大きいから、ビックリしてしまった。この人、本当に中学生なのかな?

本当に四天宝寺テニス部は、個性的な人ばかりで驚いてしまうし・・・楽しい。


これからのマネージャー生活が、どんなものになるのか、すごくワクワクした。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ