『恋樹』


□03・返事
1ページ/1ページ

白石君たちと出会って2日が経ってしまった。





今日は四天宝寺に転校生として登校する日。





時が流れるのって本当に早い。









まだ明後日なんて先の話って感じてたのに・・・。

心の準備ができない。

大阪の雰囲気に慣れることができるか不安だし、生徒さんと仲良くなれるか・・・でも、白石君や忍足君は友達なのかな?
いや!私だけ思い上がってるのかも知れないし・・・知り合い程度かな?


そんなことを考えてると、ますます頭がパンクしそうになる。






「・・・行ってきます」




食事がノドを通らないまま、登校時間がきてしまった。
学校に着く前に、こんな状態じゃ心配で仕方ない。
そんなことを思っていると、目の前にあの樹が見えた。




「そういえば返事を書いた後、見に行ってなかったな・・・。」

あの日、四天宝寺に行った帰りにリボンが結ばれてないか確かめようと思ってたのに、
忘れていたことに気がつく。


白石君の「約束」という言葉に気を取られていて・・。




気になって樹に近づいてみると、
コバルトブルーのリボンが、また結ばれていた。

つま先立ちをしながら解くと、メッセージがまた書かれてる。





「お母さんに、よろしくな。ホンマは直接言いたいんやけど・・・。」





私はその言葉に返事を添える。


「気持ちだけで、本当に充分嬉しいです!
お母さんも、前のメッセージのおかげで笑ってくれて・・
私は遠まわしでしか励ます事ができなくて、
思ったことを素直に伝えられる貴方が羨ましいです。。」






また返事、届くかな・・?






思えば、大阪に来て一番支えになってるのは、このメッセージの人の存在。
名前も、顔も知らないけど・・すごく優しい人なんだろうなぁって思う。
この人のおかげで、お母さんと笑顔で接することができた。



「きっと、新しい学校でも頑張れるよね?」



そう樹に向かって呟いて、私は学校を目指して歩いた。





















学校に着くと、担任の先生が今日のことやクラスの雰囲気を話してくれて、
そのままホームルームの始まりのチャイムと共に先生と「2年2組」と書かれた教室へと向かう。
私は教室に入ったら自己紹介をしなければならない。。







・・すごい・・緊張する・・・。






先生がドアを開けて、私もその後をついて行く。
私が教室に入ったとたん、ザワザワと騒ぎ始めた。




「おぉ〜〜〜転校生やっっっ!!」
「ホンマや!」
「かわええ子やなぁ〜」
「どこから来たんっ?!」






騒ぐってレベルじゃないくらい、一人一人声が大きい;;






さすが大阪・・・





どうしよう・・自己紹介・・・大阪だから、何か面白いコト言った方がいいのかな?






・・・緊張して声が出ない





ふと黒板から遠い席を見ると、
ざわめく教室の中、一人静かに私をまっすぐ見ている人がいた。










柔らかな髪に・・左腕に白い包帯。










白石君だ。














白石君は、私が見ているコトに気がついたのか、優しく笑って・・・
そして口パクで、「頑張れ」って言ってくれた。

そんな白石君の励ましにドキッとしてしまう。
でも、今は自己紹介することに集中しなきゃ・・・。


私は大きく息を吸って、めいっぱいの笑顔で言った。



「とっ、東京から転校してきました、如月 夕歌です。面白いコトはできないですけど・・その・・よろしくお願いしますっ・・・!!」

















「如月さん、自己紹介の時めっちゃ焦ってんの、よう分かったで」
四時間目が終わって、白石君にそう言われた。
「えっ!そんなに顔に出てた?!」
「せやけど、ちゃんと言えてた。自己紹介・・よお頑張ったな」
そう言って自己紹介の時みたいに、優しく笑ってくれた。こんなに優しい笑顔をする人、一体この世界に何人いるんだろう・・?
・・あのメッセージの人も白石君みたいな優しい笑顔をするのかな・・・?
「白石〜、昼食べに行こうやっ!」

ふと声がするほうを見ると忍足君がいた。
相変わらず元気そう。

「如月さんも食べに行かへん?」
「せや!!如月も行こうっ!」







2人のお誘いに思わずビックリしてしまう。






「えぇ!でもお邪魔しちゃ・・・」
「別にかまわへんよ。それに何かおごったるって約束してたしな」

2人の声に押されて、一緒にお昼を食べる事になった。
四天宝寺には、「くいだおれビル」っていう大きな食堂があって、「くいだおれ丼」とか色々と豊富なメニューがある。
白石君は、好きなの選んでいいって言ってたけど、
やっぱり値段は気にしないとダメと思って
安いのを探していたら、大阪名物が目に入った。






「たこ焼きがいいな」
「如月さん、たこ焼きがええの?」
「・・・うん。
本場のたこ焼きって食べた事ないし、値段もお手ごろで美味しそうで」


お父さんは大阪育ちで、
私が小さい頃、たこ焼きを作ってくれたんだけど・・
何ともいえない味で・・・。
だから美味しい本場のたこ焼きを食べたいなっていうのが、小さい頃の小さな夢だった。



「ここのたこ焼きもええけど・・・部の皆でよく行くたこ焼き屋が1番旨いんや」



白石君が食堂の人に聞えないように、小さな声で言う。


「そうなんだ・・!そのたこ焼き屋さんへの道、教えて。今度、行ってみる」
「一緒に行ったほうが、ええんちゃう?」
「うぅ・・大丈夫って言いたいところなんだけど、私・・方向音痴なんだよね;;
でも、白石君だって部活があって忙しいし、頑張って1人で行ってみるよ」
「せやけど・・・」



悩む白石君に今までの会話を聞いていたのか、忍足君が突然提案してきた。



「ほんなら、如月が部活終わんの待てばええっちゅう話や!」
「えぇっ!!」


私は思わず大きな声を出してしまった。



「如月、用事ないんやろ?」
「・・・うん」
「如月、何部に入るか決めてへんやろ?」
「・・・うん」
「やったら、部活見学も兼ねて待てばええやん!」
「へっ?なんでテニス部の見学も・・・?」
「テニス部のマネージャーやらへん?」















テニス部のマネージャー?






私が・・?












忍足君の誘いに驚いてしまう。















「ちょっ!謙也!!」
「なんや、白石。うち部員少ないから、ボール運びとか大変やったやろ?オサムちゃんもマネージャーほしい言うとったし・・」
「せやけど・・・」
「白石も、ボールの箱落とすほど疲れとるし。ボール拾い、如月に手伝ってもらっとったし」
「それは、たまたまやで」
「おまけに、こんな可愛ええ子がマネージャーやったら最高やん!」







白石君と忍足君が、議論しあう。











テニス部のマネージャーか・・・




どの部活に入りたいかなんて考えてなかったし、大変そうだけど、やってみたいって気持ちもある。
人の役にたちたいし・・・新しい自分を見つけるチャンスでもあると思う。





でも、私にその仕事が務まるかと思うと不安で・・・








やっぱり断った方がいいかな?












そんなことを考えてる間に、
忍足君は『オサムちゃん』と呼ばれるテニス部の顧問の先生に
マネージャー候補がいると話してきたみたいだった。



「ちゃんとオサムちゃんに許可取ってきたで」
「謙也の事を進める早さには、かなわんなぁ」
「それが浪速のスピードスターちゅう話やっ!!走るだけやあらへんで」
「で、オサムちゃん、何て言うとったん?」
「そんな純粋で優しくてかわええ子なら、大歓迎やわ〜って。。あとは白石が決めやって言うとったで」





白石君は困った様子で私のほうを見る。




「如月さんがしたいようにしたらええよ?謙也もオサムちゃんもああ言っとることやし」
「・・・うん」
「せやけど、如月さん気ぃ使うやろ?言葉に流されとるんちゃうかな・・って」
「そんなことないよ。誘ってもらえて、すごく嬉しかった」





マネージャーにならないかって聞かれて、嬉しいけど・・・
それは謙也君の口からでた言葉で・・・まだ白石君の口から・・どう思ってるのか聞いてない。







・・聞いていいのかな?







・・・聞きたい。










白石君の思いを聞きたい。










「・・・白石君は?」
「え?」
「白石君は、この事・・どう思ってる?」











そう質問した途端、白石君がいつも以上に困って、目が宙を向く。







難しい質問しちゃったかな・・・?








質問をしたことに後悔していたら、白石君と目があった。
すると、忍足君にも・・誰にも聞えない声で答えてくれた。




「あくまでも如月さんの気持ちが大事やから、嫌やったら断ってな」
「うん・・・」






ちょっと申し訳なさそうに、私をまっすぐ見ていて、私はその視線にドキドキしてしまった。


















「マネージャーやって下さい」


















ストレートな言葉に心臓が飛び跳ねる。






「如月さん、気が利いてて優しいし、親切やし・・
大阪にはあんま居らへんタイプでマネージャーにピッタリやと思うんやけど・・・
気ぃ使い過ぎて、倒れたりしたら大変やし・・・」





白石君の言葉は、どれも優しくて・・
気を使ってくれているのは、白石君の方だよと思ってしまう。



大阪にきて・・・まだ3日。



でも、私もあの樹みたいに人の役にたちたいって強く思うようになったの。










だから・・・









私は白石君をまっすぐ見て答えた。
















「未熟者ですが、テニス部マネージャーとして精一杯頑張るので、よろしくお願いします」









.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ