『恋樹』
□01・1本の樹
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中学2年生の冬。
私はまだ幼くて・・・弱かった。
人を助ける事も・・・幸せにしてあげることも出来なくて、悲しませるばかり。
見守る事しか出来なかった。
そう・・・思ってたのに・・・
大阪に来て・・・仲間が出来て友達が出来て、
私の存在が支えになってるって聞いてとても嬉しかった。
そして・・・
1本の木の下で貴方が私の事を『愛してる』って言ってくれて何よりも嬉しかった。
私の新しいストーリーはここから始まったんだ。
───【01・1本の樹】
駅のホームに立ちながら、私は今にも雪が降りそうな灰色の空を眺めていた。
事の始まりは11月。
家に帰るとお母さんが倒れていて、私は急いで救急車を呼んだ。
もともと体の弱い私のお母さん。
だから何度も入退院を繰り返して、倒れたのも今回が初めてじゃなかった。
初めてお母さんが倒れた時は・・私はまだ幼くて
『お母さんがいない』
・・・と泣いてお父さんを困らせた。
でもお父さんを困らせる期間は短かったと思う。
なぜかというとお母さんの回復が思ったよりも早くて、すぐ退院できたから。
病院から帰ってきたお母さんは何事もなかったように・・・
『ただいま』って、いつもみたいに笑ってくれた。
その笑顔はとても温かくて
泣いてばかりだった私は一瞬にして笑顔を取り戻すことが出来た。
だから今回もすぐ退院できるものだと思ってたのに・・・───
呼ばれた病室でお母さんの余命を告げられた。
それは・・・本当に僅かな時間だけしか残されていなくて、
何かしてあげたい・・・と思っても何をしていいか分からなくて、
・・・ただ私は泣くことしか出来なかった。
昔・・・初めてお母さんが倒れた時のように玄関でお母さんの帰りを待ってみても、扉が開く事はなくて
笑顔で「ただいま」って帰ってきてはくれなかった。
・・・それだけ・・お母さんの病気は深刻だったんだ。
脳内に・・目蓋の裏に・・・お母さんの余命を告げられたとき、寝ているお母さんの隣で泣いてるお父さんの姿が焼きついてる。
『嫌だ・・・・あと2ヶ月だなんて・・・失いたくないっ・・・!』
お父さんの・・・その言葉は呟くように小さいものだったのに廊下に立っていた私の耳にハッキリと届いた。
お母さんの余命が宣告されて1ヶ月。
12月になり、お母さんの入院先が大阪に移ることになって私もお母さんを追いかけて伯父さんのいる大阪へ行く事にした。
今・・・私がお母さんにしてあげられることは一緒にいてあげることだと思うから。
隣で・・・笑顔で傍にいてあげることが何よりも大切だと思うから。
友達にもそう言ったら、優しく笑顔で頷いてくれた。
お父さんも一緒に来たがってたけど、仕事を何ヶ月も休むわけにもいかなくて
『仕事頑張って、母さんの入院費を稼がないといけないしね』
・・って笑顔で言って東京に残る事を決めて私を駅まで送ってくれた。
私は今、大きな荷物を抱えて1人で電車を待っている状態。
お父さんは東京。
私とお母さんは大阪。
初めて家族がバラバラになったことで・・・不安で一杯で、溜息をつくと白い息が私の周りに広がった。
私・・・ちゃんとお母さんを支えていけるかな・・?
私・・大阪で上手くやっていけるかな・・・?
そんな事を考えてるうちに電車が来る。
新しく始まる生活が良いものであること、
お母さんが1日でも長く・・生きてくれる事を願って
私は足を力強く蹴って電車へ乗った。