Chamber of Secrets

□31条
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「少しは背も伸びたから服買わないとね」

リーマスはわたしの頭をぞんざいにぽんぽんと大きな手のひらで叩いた

「ヴー…少しじゃないもん」

「とりあえず教科書を買おうか」

「はぁい」

どうせロックハートのなんとかかんとかみたいな本を山盛り買うんだもの

書店に入り手紙に書かれている本を探し集める

「なぎ、ちょっと奥へ探しに行ってくるよ」

「うん、ロックハート著をやっつけとく」

ロックハートの本は目立つところにひら積みされていた

「あー…重たそう…あー…重たい」

教科書に書かれているものを片っ端から手に取る

「おや!君もわたしのファンなのかい?!」

後ろから大声で声を掛けられ本を盛大に落とした

足の甲にロックハートの本がバラバラと積もった

「痛ー…ガチでいてぇ…」

角が刺さったぞ

「おっと!驚かせてしまいましたね!」

足の甲の痛みにうめいていると声の張本人が回り込んできた

逃げるを選択して"だがしかし回り込まれてしまった"の時の気分に驚くほど類似してる

「でも、わたしくもこんな東洋人の可愛いレディがファンだと知って驚いてしまったんですよ!」

その男は凄まじい素早さで手をとってきた

いや、足の甲をさすらせてほしい

「そんな泣かなくても!」

「足の甲が痛いんです」

わたしは握られた手をやんわりほどいて積み上がった本を指差した

「誤魔化さなくても大丈夫、嬉し泣きだということは分かってますよ」

あ、効かない

言葉が効かないやつや

「本にサインしてあげましょう、あなたはラッキーですね!サイン会は本当は明日の予定でしたが偶然わたしが下見に来るなんて思いもよらなかった、でしょう?」

「はい、微塵もミジンコも」

ついため息がでた

ロックハートだよ、彼

白い歯が眩しい…

足が重たい…

「かわいいお嬢さん!お名前は?」

「ぅあっ…」

ロックハートがさらに詰め寄ってきたので足を本で固定されているわたしは尻餅をついた

「もうやだ…」

わたしは頭をかかえた

「恥ずかしがらないで!お手を貸しますよ!」

リーマス早く戻ってこないかな

「通路の真ん中で…迷惑だとは思いませんかな…?」

リーマスの声ではない、低く唸るような声

わたしは予想外の人物を背後に感じ硬直した

「おや…これは…失礼しました」

わたしは恐る恐る振り返った

やっぱりセブルスだった

なにやら訳のわからない薬学の本を片手にこちらを見下ろしていた

セブルスも座り込んでいるのがわたしであることに驚いているようだ

「嶋本…?」

大人になったセブルスを見るのはすごく久しぶりに感じた

「せぶ…きょ、教授……」

「どうした」

セブルスはひょいと屈みこんだ

ロックハートの存在は無視である

ナイスッ

「…ふぇ……」

なにか言わなければ、誤魔化さなければと思ったのに言葉らしい言葉は出ず、代わりに涙が溢れてきた

「な、なんだ…なにをされたんだね…」

狼狽するセブルスを見て余計に涙は転がり落ちた

「泣いていてはわからん…」

「な、なんでもないです」

わたしは涙を止めようと必死で言った

「なんでもないわけなかろう!」

「うぁあ…ん…教授が怒った…」

「怒ってなど…」

「わたしのサインがやっぱり―」

「失せろ」

セブルスが鋭く言った

「そんなに怖い顔しなくても」

ロックハートが肩をすくめた

セブルスは空いている片手で薄い唇に指をあてなにか考えるようにわたしの顔をじっと見つめた

「…泣くな」

「はい」

わたしは目を合わせることが出来なかった

「泣いてるぞ」

「…」

セブルスはわたしの頭を柔らかくなでた

長い間待たせたけれどセブルスは変わっていない

不器用で優しい

「…落ち着いたか」

「え?」

思わずセブルスを見上げた

似合わず心配そうな顔をしている

「もう大丈夫そうだな」

セブルスはため息をつきながら言った

杖を振って本をぱっとどかし、わたしを両腕で立たせた

なんか赤ちゃんみたいな起こされ方をして恥ずかしくなった

「久しぶり…だな」

わたしに本を渡しながら言った

久しぶり

なのだろうか

つい昨日まで一緒だった

わからない

「なぜまた泣く…」

セブルスはわたしの涙を袖口で乱暴にこすった

「これではお前の保護者が来たときにまるでわたしが泣かせたようでは―」


「うん、君が泣かせたのか?」

いつの間にか、にっこりと音が出るくらいの笑顔のリーマスがセブルスの影に立っていた


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