Chamber of Secrets

□36条
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ミセス・ノリスの襲われた話で数日もちきりのホグワーツはとても居心地が悪かった

愛猫の石化でフィルチは気が狂ったように片っ端から生徒を処罰に持ち込もうとした

「嶋本!罰則だ!歩き方がうるさい」

「そ、そんな…じゃあどうやって歩けばいいんですか?!こうですか」

わたしはハー子に教科書を持たせて華麗にムーンウォークした

中学のとき極めた甲斐があった

まわりの生徒がぶふっと吹き出した

フィルチはそれが余計に気に障ったらしく叫んだ

「秩序を乱した!罰則だ!」

お陰さまでわたしは罰則にかける時間が倍になり、ハーマイオニーが読書にかける時間も倍になった


「ポッター、机のフジツボをこそげ落としてから帰りたまえ」

セブルスが授業の最後に告げた

小さくため息をついたハリーを尻目に腹ペコなわたしは教科書をまとめているとセブルスと目が合う

出ていく生徒の流れが、時が静止したようにセブルスと空間が繋がったような錯覚がした

そんな感覚にぼんやりしていると、セブルスの眉間のシワがふっと緩んだ気がして慌てた

「嶋本」

「ま、まだなにもしてません」

「…なにも言っておらんだろう」

セブルスの眉間にはまた谷ができた

「教卓の瓶を持って着いてきたまえ」

「はーい」

わたしは大人しく瓶をがちゃがちゃと持ち、セブルスの後に従った

「ここに置いてくれるか」

セブルスの私室に来たのは久しぶりだ

「はい」

「嶋本、置いたらここに」

セブルスは革張りのソファーをしめした

よく分からない雰囲気を打破するため、勢いよく腰かけるとセブルスはなにも言わずに向かいの椅子に座った

革張りのソファーが軋む

なんだか家庭訪問のような図だなぁと前の世界を思い出す

「ちゃんと寝ているのか?」

セブルスがはっと息をはいた

「たくさん寝てますよ」

けらけらと明るく答えるとセブルスは表情を曇らせた

「いつも元気一杯ですもん」

「昨年はひどかっただろう…今学期初めだって…見られたものではなかった」

セブルスは神経質に腕をくんだ

「先生」

「……なんだね」

「先生」

「…」

セブルスの暗い瞳は不安そうなわたしの顔が映っている

「無茶したらごめんなさい!!」

うつ向いて膝の上の握りこぶしを見つめた

「リーマスと約束したけど…もう見て見ぬ振りしたくないです」

石化事件から毎晩のように夢を見た

リーマスが石になり、ある晩はセブルスが切り裂かれた

「心配しないでください」

泣かないように必死に顔を上げ、セブルスを見た

「大丈夫ですから」

「貴様の大丈夫が大丈夫だったためしがあるか」

痩せた指がわたしの頬を撫でた

「もう泣きません」

出来損ないでも神様だから 負けない

あの夜した決意、と言ったら子供っぽくなってしまうけれど

今までわたしを監視してきたセブルスはきっとわたしの心境の変化なんて分かっている

「なにかあったら…ちゃんとわたしに報告したまえ」

唇が震えるのを感じる

「大丈夫だ」

セブルスが優しく笑った

学生時代のセブルスの笑顔と今のセブルスの笑顔が重なる

胸がぎゅっと冷たくなった

「わたしの大丈夫が信じられないのかね?」

「信頼しています…先生を、誰よりも」

ついて出た言葉にまた薄い唇が弧を描いた

セブルスの手がわたしの頭をぽんぽんと叩いた

「約束などと言ってお前を縛ろうとしても…無駄なのだろうな」

「……そう言われますと心苦しいものがですね」

「まぁ良い、しっかり監視させていただく」

とか言ってセブルスの監視はいつのまにか見守るという行為に昇華している

「ところで嶋本」

セブルスは立ち上がり一枚の羊皮紙を持ってきた

わたしのレポートだ

「なにか不備でも…?」

「いや…逆だ」

羊皮紙の端をくるくると弄びながら言った

「いつの間にこんなにできるようになった」

夏休みにセブルス少年に教えられた成果であることは明らかだ

「夏休みに勉強しました…」

「…そうか」

「先生」

セブルスはわたしを見た

「お腹…すいちゃいました」

丸めた羊皮紙でポカンとわたしの頭を殴った

「行ってよろしい」

フジツボと戦っていたハリーと合流し、遅めの昼食へ向かった

心のわかだまりが少し溶けたような気がする

「ご機嫌だね」

ハリーが不機嫌に言った




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