出来損 番外

□28.5条
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「セブルス」

朝、なぎがもじもじと声をかけてきた

「なんだ?」

自分で思ったよりも酷く無愛想な声がでてしまった

「え、えっと…」

なぎは赤くなってうつ向いた

なるほど、そうならそうと言えばいいのだ

僕は出来るだけ優しい声を出すよう努め、言った

「トイレに行きたいのなら行けばいいだろう?
僕だってそれくらいは待っていてやる」

「違うわッ!」

僕の努力は掻き消された

「これ!!」

若干むくれたなぎが僕に箱を押し付けてきた

箱は綺麗にリボンがかけてある

「…なんだこれは?」

「バレンタインのチョコ」

「……」

「日本のバレンタインはチョコをプレゼントするの」

「ま、まさかお前が作ったのか?」

先月の惨劇のケーキ事件の残像が頭の中で踊った

「うん!ほら、誕生日のケーキはちょっと―…独創的だったでしょ?」

こいつは僕とポッターとブラックを医務室送りにした猛毒のスポンジの塊を“独創的”で済ませようとしているようだ

いや、“毒草的”の聞き間違いかもしれない

きっとそうだ

ぼんやりとそんなことを考える

「だから今回はちゃんと作ったの!…食べてくれる?」

上目遣いで僕を見てきた

そんな顔をするな

無下に断れなくなるだろう

「あぁ」

「ほんと?!ヤッター!!」

気がついたら僕の口は本人の意思とは無関係に動いていた

もしかしたら口は独立した器官なのかもしれない


なぎは目を輝かせ、僕が箱を開けるのを待っている

僕は高速で最悪のパターンを10通りほど想定してしまい、今すぐ箱を放り出して逃げたくなった

ちらりと目を上げ、なぎの顔を伺う

しかし、やっぱりなぎはきらきらとした顔をして僕を見ている

覚悟を決めてリボンをほどいた


中には焦げ茶色のものが4つ並んでいた

これが道端に落ちていたら、10人が10人、犬のフンだと明言するだろう

そして僕もそうしただろう

「ちょーっと見た目は個性的だけど…」

僕が絶句していると、なぎが目を反らしながら言った

今度は“個性的”らしい

しかしこれはまだ想定の範囲内だ

最悪、ゾルゲル転換途中状のチョコも想定していたのだから固体なだけましだというものだろう

「や、やっぱりこんなの……ごめんね…無かったことに―……」

黙っていたらなぎの手が伸びてきて僕の手から箱を取ろうとした

先ほどのきらきらとした表情は消えている

「食べないなんて言ってない」

僕の口はまた勝手に不機嫌な声を捻り出し、それに合わせて僕の手がなぎの手を払いのけた

「でも…」

そんな泣きそうな顔をするな

「うるさい」

「あ…」

僕は可哀想な茶色の塊をつまみ上げ口に入れた

砂糖がきちんと溶けなかったのかジャリジャリするし、湯煎で失敗したのだろうか少し苦い

お世辞にも美味しいとは言えない

「……」

なぎは不安そうな顔でまたうつ向いた


「美味しい」

ついぶっきらぼうに僕は言ってしまった

なぎはびっくりして顔を上げ、
ぱっと、すごく嬉しそうな顔になった

「本当?」

「…あぁ」

「良かったぁあ」

なぎが白い頬を桃色にし、はにかんで笑った



こんな嘘をつくのは悪くないかもしれない






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