緋色の欠片

□天球の音楽
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 守護者のうち自分ひとりだけ許された世界。そこに見えるものを、聞こえるものを、彼女に見せたいと思うのは、きっと彼女が誰よりも大切な存在だからだろう。








 夜空を翔けながら、真弘は風を切って聞こえる音に耳をそばだてた。


 夜行性の動物たちの鳴き声、木々のざわめき、流れる水の音……それらに合わさって、風が頬を駆け抜けていく音も耳に滑り込んでくる。


 それは、普段から聴き慣れた音だが、こうして耳を澄ましてみると、まるで自然が一体となって、ひとつの曲を生み出しているような錯覚さえ覚える。


 柔らかな風が頬を撫でていく。


 ふと、眼下に目を向けた真弘は、暗闇に包まれた村の中で、唯一明かりのともる家を見つけた。あそこは、確か……どころか、間違いなく。


「……あいつ、まだ起きてるのか?」


 首を傾げたが、まさかこんな夜中に押しかけるほど酔狂を起こしてはいない。それに、こんな夜更けに彼女に会いに行くのは、毎日顔を突き合わせているという事実があるだけに、なんとなく照れ臭いというか、まだ彼女との時間を共有したいと思っている我侭なやつみたいで、どうも癪に障る。


 ここは我慢、というように再び中空に視線を向けた真弘は、再び夜の世界の音の渦に巻き込まれるように耳を周囲に傾けた―――…。


 















 時が流れて、ようやく帰路についた真弘は、冷えた体を布団の中へ滑り込ませて瞳を伏せた。まだ耳が覚えている音の渦を、頭の中で再現しながら―――…。



 そうして、いつも思うのだ。



 あぁ、いつか彼女にこの夜の世界の音を聞かせてあげたい、と―――…。








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