ワンドオブフォーチュンF

□レンゲソウ
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湖のほとりは、私とエストが初めて会った場所で、エストが私に初めて思いを伝えてくれた場所である。
そんな思い出いっぱいの場所を私が大好きなのは言うまでもなく、休日に二人の予定が合えばいつもそこで過ごすことにしている。

今日も私はエストと共にここに来ていた。

「今日もいい天気ね、エスト!……あれ…?」

先週見かけなかったものを私は見つけ、そこに駆け寄る。
それは、小さめの可愛い花だった。
紅紫色と白の花びらがついている。

「レンゲソウ…ですね」

私の後ろから覗きこんだエストが言う。
レンゲソウ。初めて聞く名の花だが、可愛くてすぐに気に入った。

「私、この花好きだわ」

指先で優しく壊れないように花びらを撫でる。

「…僕も、好きですね」

「エストが花を好きって言うのは珍しいわね!私ももっとこの花が好きになっちゃう!!」

エストと同じものを好きと思えるなんて、すっごく嬉しいもの!と声を弾ませると、ほのかに赤く染まるエストの頬。

「この花は…、あなたに似てますね」

「え……?」

似ている?エストが好きな花が私に…?
それはつまり――

「私に似てるから好き…とか……?」

冗談めかしに言うと、頬さ更に赤く染まる。
それはつまり肯定しているようなもので。
私も自分の頬に熱が集まるのを感じた。

「…そ、そんなことより、今日は何をするんですか…?」

顔を逸らされ、早口に告げられた言葉。
それが所詮照れ隠しでしかないことはお互いに分かっている。
だから私も、その照れ隠しに便乗する。

「二人でお昼寝しましょう!」

「嫌です」

「いいでしょ!」

言うが早いか、私はエストの胸に勢いよく飛び込む。
案の定、バランスを崩してエストは倒れ込む。

「…っ……ルル…!!」

エストの少し苛立ったような言葉を無視して、私はエストの胸元に顔を擦り寄せた。
トクン、トクン、と少し早い心臓の音が聞こえ、安心する。

「ルル…?……まったく、あなたって人は……」

エストのため息が聞こえてきた気がするが、私は押し寄せる眠気にそのまま身を任せた。





完全に寝入ってしまったルルに、ため息が漏れる。
少々、と言うか、かなり無防備である。
もう一度ため息を吐き、僕は先程のレンゲソウへ視線を向けた。
ルルに似た花。
レンゲソウは僕から見たルルそのままだった。
知っていますか、ルル?レンゲソウの花言葉は――

「ふわぁ……」

不覚にも欠伸がでる。
不本意ながら、どうやらルルに感化されてしまったらしい。
規則正しい呼吸を繰り返すルルの頭と腰をやんわりと固定する。
そしてまもなくして僕も眠りに落ちていった。






しばらくの間、湖のほとりには静寂が漂っていた。




レンゲソウ



(花言葉は『私の苦しみをやわらげる』)





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