ワンドオブフォーチュンF
□仄かに香る匂いすら
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その匂いがなんなのかを把握して、エストは唇をゆるくゆがめた。
「……ど、どんな香りがする?」
「そうですね…。強いて言うなら、柔らかい香りだとでもいえばいいんでしょうか」
そういいながら、エストはルルが持ってきた件の香水に目を落す。
ヴァニアの授業では、おそらく最も女子生徒が楽しみにしている授業のひとつ。魔法薬学にも多少精通するものの、上手く調合できれば、嗅ぐ人によって様々な匂いを齎す。
簡単に言ってしまうのなら、渡された相手がこれを作り出した相手に好意を持っていれば、相手を連想させる匂い。逆なら、自分が苦手とする匂い。
以前ヴァニアが言った台詞を借りるのならば、「恋人たちにこそ相応しいアイテム」とでも言えばいい。好き合った男女ともに作ってお互いに交換すれば、これをつけているだけで相手が傍にいるかと錯覚させるくらいに相手の香りを纏えるとか。
以前の自分は、作っていてなんだが、あまりにもくだらないアイテムだと思って、自分の部屋のどこかに放置したような気がする。以来、それの存在はすっぽり記憶から抜け落ちていた。
まさか恋人からこの存在を思い出させて来ようとは。
苦笑しつつ、エストは懐にそれをしまった。ひとり部屋だから、よく使うものにでもそれを噴きつけて置こうかなどと思いながら。
「……もしまだ残っていたら、僕が以前作ったものをあげます。別に自分に噴きつけても匂いはしないはずですし」
「本当?!」
「ええ。あなたがいったいどんな香りを嗅ぐのか少し興味があります」
笑みを零しつつ、そう言ったエストに、ルルはにっこり笑って、もしあったら絶対頂戴と、強請ったらしい―――…。
あとがき