ワンドオブフォーチュンF
□I cannot wipe the tears even if you cry.
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唇から、自嘲するような声が漏れた。
それでも、脳裏に焼け付く彼女の笑顔は目蓋の裏に鮮やかに映し出され、触れた肌から伝わる温もりは、微かだけれどまだ指先に残っていて。
「……ルル…」
その温もりを感じようと、唇を彼女に触れたその指先に触れさせた。それと同時に、脳裏でひとつの考えが浮上する。
「………今頃は、きっと泣いているのでしょうね」
言葉にした途端、あの湖のほとりでひとりきりにさせたとき、俯いていた彼女の横顔がちらつき始めた。瞳から溢れそうな涙を、直視することができなくて、本へと視線を落したあの日。
愚かしいとも思っていた恋情は、闇の世界へやってきたとたん、どこまでも大切な感情になった。だからこそ、思う。
「……どうか、僕のことは忘れてください」
もう姿さえ捉えられない彼女に、届かない思いを紡ぐ。
「………半年の間、これほどまでに幸せを感じたのは、あなたのおかげだから」
目蓋を閉じれば、まだあざやかに表情豊かで突拍子もないことを思いつく少女の姿が思い描かれる。
「……だから…」
どうか、幸せになって―――…。
もう、僕はあなたの涙をぬぐいにいける場所にはいないから。
だから、言葉を用いて嘘をつく。
幸せを与えたかったという心に、目を背ける。
そして、願う。この、闇の中で、何度も。
―――――君に、永久の幸あれ、と。
あとがき