ワンドオブフォーチュンF
□君に贈る揺籃歌(ベルスーズ)
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「……昔から風邪を引くとね、お母さんが歌を歌ってくれたの。頭が痛いのに、寂しがって何処にも行かないで、って我侭言う私に」
「………そうですか。残念ながら僕はそういったものを知りません」
エストの言葉に、ルルははっとして瞳を伏せる。
「……ごめんなさい」
「何故謝るんです。親に大事にされた話ぐらいで」
そう言って呆れたようにため息をつくエストの胸中に、どんな思いが駆け巡ってるのかは分からない。人体実験によって擬似古代種となったエストにとって、その一員であった両親というキーワードが、今彼にどんな作用を齎したのかが分からなくて、ルルは手を伸ばした。
「……ルル?」
「……エストが風邪を引いたときには、私が歌ってあげるね?」
「……結構です。そんなものを聴いて寝れないほど幼くはないですし、そもそもあなた、歌を上手く歌えるんですか」
「う、歌えるわっ。えっと、例えば…」
そういいながらルルが口ずさみ始めたのは、優しい響きを残すようなメロディだった。口ずさむ歌詞からしても、子守唄だと判ずるのが適当かもしれない。
「―――………ほらっ! ね?」
「……まぁ、取り合えず音痴ではないことは伝わりました」
「でしょう? だから、今度エストが風邪でも引いたら、絶対に歌ってあげるわっ」
「いりません、一応もう15を迎える年なんですから…」
やがて疲れて眠ってしまう彼女は、閉ざした目蓋の裏に、転寝をする彼とその子どもの傍で、そっと低い声で歌う自分の姿が見えた気がした―――…。
あとがき